・・・ 彼は、子供の時分、村はずれの原っぱに立っていた、そして、その下でよく遊んだ松の木を思い出したのでした。「よく似た木もあったものだ。やはり、片方の技が折れていたっけが。」 村の松の木の片方の枝は、冬、大雪が降ったときに折れたもの・・・ 小川未明 「曠野」
もう、ひやひやと、身にしむ秋の風が吹いていました。原っぱの草は、ところどころ色づいて、昼間から虫の鳴き声がきかれたのです。 正吉くんは、さっきから、なくしたボールをさがしているのでした。「不思議だな、ここらへころがってきたんだ・・・ 小川未明 「少年と秋の日」
・・・ 夏の白い雲がうごく、空の下の原っぱで、子供たちは、おじさんを取り巻いて、かわいそうな子供のお話をききました。絵紙はなかったけれど、話が上手で、目に見る気がしてみんなは感心してきいていました。お話が終わると、おじさんは、あめを分けてくれ・・・ 小川未明 「夏の晩方あった話」
・・・「赤土の原っぱにも。」「ええ、原っぱにも、お宮の境内にも。」 正ちゃんは、よく、その原っぱや、お宮の境内で、お友だちといろいろのことをして遊ぶのです。「どこへいったでしょう。こんなにおそくまで遊んでいることは、ないのに。」と・・・ 小川未明 「ねことおしるこ」
・・・そして、もとより、原っぱで、まりを投げるときは、左ピッチャーで、威張ってよかったのでした。 なんにしても、正ちゃんは、指さきですることは、不器用でありました。鉛筆もひとりでうまく削れません。女中のきよに削ってもらいます。きよは、お勝手の・・・ 小川未明 「左ぎっちょの正ちゃん」
・・・「いくら、呼んでも、こなかった。そして、とっとと、あっちへいってしまった。」と、政ちゃんが答えました。「どっちの方へ、いってしまったい。」と、だまってきいていた、正ちゃんが、ききました。「原っぱの方へ、川について、とっとと、いっ・・・ 小川未明 「ペスをさがしに」
「誠さんおいでよ、ねこの子がいるから。」と、二郎さんが、染め物屋の原っぱで叫びました。 誠さんにつづいて、二、三人の子供らが走ってゆきますと、紙箱の中に二ひきのねこの子がはいっていました。「だれか、捨てたんだね。」「橋の上に・・・ 小川未明 「僕たちは愛するけれど」
・・・佐伯は思わずヒーヒーと乾いた泣き声を出し、やっとその池の傍の小径を通り抜けると、原っぱのなかを駈けだす。急に立ち停る。ひどい息切れが来たのだ。胸の臓器を押しつぶしてしまいそうな呼吸困難である。駅の前が真っ白になる。赤い咳が来る。佐伯は青ざめ・・・ 織田作之助 「道」
・・・ 勝子 峻は原っぱに面した窓に倚りかかって外を眺めていた。 灰色の雲が空一帯を罩めていた。それはずっと奥深くも見え、また地上低く垂れ下がっているようにも思えた。 あたりのものはみな光を失って静まっていた。ただ・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ 朝夕朗々とした声で祈祷をあげる、そして原っぱへ出ては号令と共に体操をする、御嶽教会の老人が大きな雪達磨を作った。傍に立札が立ててある。「御嶽教会×××作之」と。 茅屋根の雪は鹿子斑になった。立ちのぼる蒸気は毎日弱ってゆく。・・・ 梶井基次郎 「雪後」
出典:青空文庫