・・・ 堺氏は「およそ社会の中堅をもってみずから任じ、社会救済の原動力、社会矯正の規矩標準をもってみずから任じていた中流知識階級の人道主義者」を三種類に分け、その第三の範囲に、僕を繰り入れている。その第三の範囲というのは「労働階級の立場を是認・・・ 有島武郎 「片信」
・・・けれども私自身を働かせる原動力をばもらわない。大切なるものをばもらわないに相違ない。しかしもしここにつまらない教会が一つあるとすれば、そのつまらない教会の建物を売ってみたところがほとんどわずかの金の価値しかないかも知れませぬ。しかしながらそ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ 倫理思想は内側から社会を動かす原動力である。そして倫理学はその実践への機を含んでしかも、直接に発動せず、静かに、謙遜に、しかも勇猛に徹底して、その思想の統一をとげ、不落の根拠を築きあげようと企図するものであり、そこには抑制せられたる実・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・この心持はすなわち良い作の生まれる原動力になる。一、よく読書すること。われわれの尊い先人の作をできるだけ熱心に読まねばならぬ。これを怠っては芸術の成長の一つの大きな滋養を失うことになる。いい人のものはたくさん読むだけ良い・・・ 倉田百三 「芸術上の心得」
・・・これが永遠に母親の愛の原動力である。これがなかったら、私たちは母親というものをこれほどなつかしく思うことはできないだろう。私は動物園で子どもを抱いている母猿を見るごとに感動せぬことはない。これは実に「聖母マリア」の原型だ。聖母の中の聖母、フ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ 血は、老人がはねまわる、原動力だ。その原動力が、刻々に、体外へ流出した。 彼は、抜き捨てられた菜ッ葉のように、凋れ、へすばってしまいだした。 彼は最後の力を搾った。 彼はまた這い上ろうとした。 将校は、大刀のあびせよう・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ 頭髪は観者の注意を強くひきつける事によっておのずから人物の顔を生かす原動力になっている。もしこの漆黒の髪がなかったら浮世絵の顔の線などは無意味な線の断片の集合に堕落してしまって画面全体に対する存在理由の希薄なものになってしまいそうであ・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・一片の麩を争う池の鯉の跳躍への憧憬がラグビー戦の観客を吸い寄せる原動力となるであろう。オリンピック競技では馬やかもしかや魚の妙技に肉薄しようという世界じゅうの人間の努力の成果が展開されているのであろう。 機械的文明の発達は人間のこうした・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・一片の麩を争う池の鯉の跳躍への憧憬がラグビー戦の観客を吸い寄せる原動力となるであろう。オリンピック競技では馬や羚羊や魚の妙技に肉薄しようという世界中の人間の努力の成果が展開されているのであろう。 機械的文明の発達は人間のこうした慾望の焔・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・しかし性のいい弟子は、先生の手足になってきげんよく元気に働いている期間にすっかり先生の頭の中の原動力を認識し摂取してわが物にしてしまう。そうして一本立ちになるが早いかすぐに自分の創作に取りかかる。これに反して先生が自分の仕事を横取りしたとい・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
出典:青空文庫