・・・いずれにしてもその原因は、思想なり感情なりの上で、自分よりも菊池の方が、余計苦労をしているからだろうと思う。だからもっと卑近な場合にしても、実生活上の問題を相談すると、誰よりも菊池がこっちの身になって、いろ/\考をまとめてくれる。このこっち・・・ 芥川竜之介 「兄貴のような心持」
・・・、今日の地価との大きな相違はどうして起こってきたかと考えてみると、それはもちろん私の父の勤労や投入資金の利子やが計上された結果として、価格の高まったことになったには違いありませんが、そればかりが唯一の原因と考えるのは大きな間違いであって、外・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・これ我々自身の希望、もしくは便宜によるか、父兄の希望、便宜によるか、あるいはまた両者のともに意識せざる他の原因によるかはべつとして、ともかくも以上の状態は事実である。国家ちょう問題が我々の脳裡に入ってくるのは、ただそれが我々の個人的利害に関・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
僕は随分な迷信家だ。いずれそれには親ゆずりといったようなことがあるのは云う迄もない。父が熱心な信心家であったこともその一つの原因であろう。僕の幼時には物見遊山に行くということよりも、お寺詣りに連れられる方が多かった。 ・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・戦乱漸く跡を絶ち、武人一斉に太平に酔えるの時に当り、彼等が割合に内部の腐敗を伝えなかったのは、思うに将軍家を始めとして大名小名は勿論苟も相当の身分あるもの挙げて、茶事に遊ぶの風を奨励されたのが、大なる原因をなしたに相違ない、勿論それに伴う弊・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・お貞が二人の子供を実子のように可愛がり、また自慢するのが近処の人々から嫌われる一原因だと聴いていたから、僕はそのつもりであしらっていた。「どうも馬鹿な子供で困ります」と言うのを、「なアに、ふたりとも利口なたちだから、おぼえがよくッて・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ が、長崎渡りの珍菓として賞でられた軽焼があまねく世間に広がったは疱瘡痲疹の流行が原因していた。江戸時代には一と口に痲疹は命定め、疱瘡は容貌定めといったくらいにこの二疫を小児の健康の関門として恐れていた。尤も今でも防疫に警戒しているが、・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・何故だといいますと、それが世界を感化するの勢力を持つにいたった原因は、その学校にはエライ非常な女がおった。その人は立派な物理学の機械に優って、立派な天文台に優って、あるいは立派な学者に優って、価値のある魂を持っておったメリー・ライオンという・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・彼等は、この社会生活、そのものゝ原因に対しては疑わなかった。それを疑うことは、怖しいことゝして来た。圧搾せられたる版図に於て、自由を求めた。恨みを述べた。そして人生というものを宿命的のものに強いて見ようとつとめた。「芸術は革命的精神に醗・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・父の夫婦別れの原因はいまもって判らないが、やはり落語家らしいのんきな男でした。 それはともかく、家が上ノ宮町へ引っ越していたのはちょっと寂しいことだった。というのは漆山文子のいる畳屋町は笠屋町から心斎橋筋へ一つ西寄りの通りだから、私はす・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
出典:青空文庫