・・・冬の短い地方ではどんな厳冬でも草もあれば花もある。人の生活にも或る華やかさがついてまわっている。けれども北海道の冬となると徹底的に冬だ。凡ての生命が不可能の少し手前まで追いこめられる程の冬だ。それが春に変ると一時に春になる。草のなかった処に・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・「師走厳冬の夜半、はね起きて、しるせる。一、私は、下劣でない。二、私は、けれども、独りで創った。三、誰か見ている。四、『あたしも、すっかり貧乏してしまって、ね。』五、こんな筈ではなかった。六、蛇身清姫。七、『おまえをちらと見たのが不幸の・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・女がその歴史の意味をはっきりつかんで、体と心で厳冬をしのいでゆかなければならない。女が永い永い未来の見とおしと自分たちの善意と理性への信頼を失わずに、炭がなければ体と体、心と心とをよせあつめて、若い働く女性の誇りに生き、明日を生み出してゆか・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・或る厳冬、マクシムを誘ってこの義兄弟どもは池へ出かけ、スケートと見せかけて、氷の裂け目からマクシムを水の中へ突落した。マクシムは氷のふちへ手をかけて浮き上ろうとする。ミハイロとヤーコブとは、ここぞとばかりその手の指を踵で踏みたくる。 マ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ ――モスクワのどの店頭にだって、Xマス売出しはない。 厳冬で、真白い雪だ。家々の煙出しは白樺薪の濃い煙を吐き出している。赤と白とに塗った古い大教会のあるアルバート広場へ行ったら、雪を焚火のおきでよごして、門松売りのようにクリスマス・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
出典:青空文庫