・・・僕は明けがたの夢の中に島木さんの葬式に参列し、大勢の人人と歌を作ったりした。「まなこつぶらに腰太き柿の村びと今はあらずも」――これだけは夢の覚めた後もはっきりと記憶に残っていた。上の五文字は忘れたのではない。恐らくは作らずにしまったのであろ・・・ 芥川竜之介 「島木赤彦氏」
・・・緑雨の竹馬の友たる上田博士も緑雨の第一の知己なる坪内博士も参列し、緑雨の最も莫逆を許した幸田露伴が最も悲痛なる祭文を読んだ。丁度風交りの雨がドシャドシャ降った日で、一代の皮肉家緑雨を弔うには極めて相応しい意地の悪い天気であった。 緑雨の・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・豆腐屋の葬儀には彼も父の黄村とともに参列した。十歳十一歳となるにつれて、この誰にも知られぬ犯罪の思い出が三郎を苦しめはじめた。こういう犯罪が三郎の嘘の花をいよいよ美事にひらかせた。ひとに嘘をつき、おのれに嘘をつき、ひたすら自分の犯罪をこの世・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・ 四 ある家の告別式に参列して親類の列に伍して棺の片側に居並んでいた。参拝者の来るのが始めのうちは引切りなしに続いてくるが三十分もたつと一時まばらになりやがてちょっと途切れる。またひとしきりどかどかと続いて来・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・その表彰式に彼の母も参列したが、人々は「我 Senior Wrangler の姉君」のために万歳を三唱」した。実際母は彼よりただ十八歳の年長者であったのである。彼の郷閭の人々のうちには彼の学者として立つ事が彼の Lord としての生活と利害・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・――昔は十万石以上の大名がこの殿上に居並び、十万石以下の大名は外なる廻廊に参列して礼拝の式をなした。かく説明する僧侶の音声は如何によく過去の時代の壮麗なる式場の光景を眼前に髣髴たらしめるであろうか。 自分は厳かなる唐獅子の壁画に添うて、・・・ 永井荷風 「霊廟」
出典:青空文庫