・・・一度冥途をってからは、仏教に親んで参禅もしたと聞く。――小母さんは寺子屋時代から、小僧の父親とは手習傍輩で、そう毎々でもないが、時々は往来をする。何ぞの用で、小僧も使いに遣られて、煎餅も貰えば、小母さんの易をトる七星を刺繍した黒い幕を張った・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・趙州和尚は、六十歳から参禅・修業をはじめ、二十年をへてようやく大悟・徹底し、以後四十年間、衆生を化度した。釈尊も、八十歳までのながいあいだ在世されたればこそ、仏日はかくも広大にかがやきわたるのであろう。孔子も、五十にして天命を知り、六十にし・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・をとびとびに読み、終りに近く、宗助が鎌倉の寺に参禅したところで、ひどく感動する文句に遭った。彼の作より寧ろ引用してある禅僧の話が心を打ったのだ。「悟りの遅速は全く人の性質で、それ丈では優劣にはなりません。入り易くても後で塞えて動かな・・・ 宮本百合子 「余録(一九二四年より)」
出典:青空文庫