・・・宿屋の硯を仮寝の床に、路の記の端に書き入れて、一寸御見に入れたりしを、正綴にした今度の新版、さあさあかわりました双六と、だませば小児衆も合点せず。伊勢は七度よいところ、いざ御案内者で客を招けば、おらあ熊野へも三度目じゃと、いわれてお供に早が・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・えた貯金通帳を贈れば、秋山君は救ったものが救われるとはこのことだと感激の涙にむせびながら、その通帳を更生記念として発奮を誓ったが、かくて“人生紙芝居”の大詰がめでたく幕を閉じたこの機会にふたたび“人生双六”の第一歩を踏みだしてはどうかと進言・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 勝負事を否定するかと思うと、双六の上手の言葉を引いて修身治国の道を説いたり、ばくち打の秘訣を引いて物事には機会と汐時を見るべきを教えている。この他にも賭事や勝負に関する記事のあるところを見ると著者自身かなりの体験があったことが想像され・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
出典:青空文庫