・・・私はこの書を反復熟読し、それを指導原理として私の実践生活を規範しようとさえもしたが、しかし結局はそれも破綻して、私は倫理学以上の、「善悪を横に截る道」を求めて、宗教的方法の探求へと向かったものであった。 がここでいいたいのは、かような指・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・それは如何なる点に存するか明白に自覚し得ないが、やはり子音母音の反復律動に一種の独自の方式があるためと思われる。ともかくもその効果はこの作者の歌に特殊の重味をつける。どうかするとあまりに重く堅過ぎるように私には思われる事もあるが、考えてみる・・・ 寺田寅彦 「宇都野さんの歌」
・・・に到達し、それから比較的滑らかにいくつかの短篇をかき、やがてそういう滑らかさの反復に作家として深い疑いを抱きだした、その最後の作品であるから。この作品を書いて程なく、ソヴェトを中心とするヨーロッパ旅行に出発した。「赤い貨車」は一九二八年・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・なるほど私たちは観ている中に思わず唸るほどたっぷり沙漠を見せられるが、その沙漠はただ風が吹き暴れたり、陽が沈んだり、夜が明けたりする変化に於てだけとらえられている。反復が芸術的に素朴な手法でされているものだから、希望される最も低い意味での風・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・決して反復されることない個人の全生涯の運命と歴史の運命とは、ここに於て無限の複雑さ、真実さをもって交錯しあっているのである。 ジイドが、彼の才能と称され、又誤って評価された観念性によって新しい一つの社会を偶像化して空想したことは彼の自由・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・人口の大部分を占めている勤労者の生活の不安が解決されないまま、その結果にあらわれた誰の目にも悪いものを掃除したとしても、根本矛盾がそのままでは、また、たちまち悲劇は反復です。きょうの往来を歩くと、到るところ「スリが狙ってる!」と立て札があり・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・ 勘は天来のものではなくて、人間の努力、反復、鍛錬の結果が蓄積して、複合的な直覚が特定の範囲で発動し、肉体の動きまでを支配する、そういう意志的な要素を底流とした心理であるから、勘の内容は、反復され、努力されることの質に応じて具体的に相異・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・それでファイルすると、いつか感受性は鈍く、厚く、反復的となる。 つよさは底入れとなれ 敏感に――だがすぐかたづけるな 親父の薄はかさはここだ○大衆的活動へのうつりかわり 重く、やっこらとトロッコを別のレール・・・ 宮本百合子 「無題(九)」
・・・に至る間は、小説と戯曲とでいくらかの違いこそあれ、これも些か注意ぶかい読者ならば、おのずから心づかずにはいられない反復をもって、良人以外の男と恋愛的交渉のあった妻、ある妻。その女に対して、人間として為すべき道義の自覚から行動する男。それに母・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・そこでじれったがりながら、反復して同じ事を言う。しかし自分の言うことが別当に聞えるのは強いので、次第に声は小さくなるのである。とうとうしまいには石田の耳の根に摩り寄って、こう云った。「こねえな事を言うては悪うござりまするが、玉子は旦那様・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫