・・・ オルガンティノは反省した。「この国の風景は美しい。気候もまず温和である。土人は、――あの黄面の小人よりも、まだしも黒ん坊がましかも知れない。しかしこれも大体の気質は、親しみ易いところがある。のみならず信徒も近頃では、何万かを数える・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・――やっとこう云う反省が起って来たのは、暫くの間とうもくして、黙っていた後の事である。が、その反省は、すぐにまた老道士の次の話によって、打壊された。「千鎰や二千鎰でよろしければ、今でもさし上げよう。実は、私は、ただの人間ではない。」老人は、・・・ 芥川竜之介 「仙人」
・・・私は自分自身の内部生活を反省してみるごとにこの感を深くするのを告白せざるをえない。 かかる場合私の取りうる立場は二つよりない。一つは第三階級に踏みとどまって、その生活者たるか、一つは第四階級に投じて融け込もうと勉めるか。衝動の醇化という・・・ 有島武郎 「想片」
・・・そうしてさらに詳しくいえば、純粋自然主義はじつに反省の形において他の一方から分化したものであったのである。 かくてこの結合の結果は我々の今日まで見てきたごとくである。初めは両者とも仲よく暮していた。それが、純粋自然主義にあってはたんに見・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・理窟は凡に立到り、そしてその反抗を起した場合に、その反抗が自分の反省の第一歩であるという事を忘れている事が、往々にして有るものである。言い古した言い方に従えば、建設の為の破壊であるという事を忘れて、破壊の為に破壊している事があるものである。・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・ 自分の力でできることは、よく反省して、注意を怠ってはならない――。 ほんとうに、あのとき、吉雄くんが、自分の木はだめだといって、そのままにしておいたり、もしくは、捨ててしまったら、どうでしたでしょう。かわいそうに、その木は、ついに、一・・・ 小川未明 「いちじゅくの木」
・・・言うこと、なすことについて、深く反省する必要があります。たとえば、その一例として挙げれば、子供が友達と遊んでいたとする、その子供の様子が汚いからといって、また、その子供の親の職業が低いからといって、「あの子供と遊んではいけません」というが如・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・ 少し作家的反省と自負とがあるならば、これは、単に、資本家の意図にしかすぎないことを知るのである。真の大衆は、最も彼等の生活に親しみのある。いろ/\な真実の言葉を聞こうと欲するにちがいない。常識にまで低下して、何等の詩なく、感激なき作品・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・ 佐助はもはやけちくさい自己反省にとらわれることなく、空の広さものびのびと飛びながら、老いたる鴉が徒労の森の上を飛ぶ以外に聴き手のない駄洒落を、気取った声も高らかに飛ばしはじめた。「おお、五体は宙を飛んで行く、これぞ甲賀流飛行の術、・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
・・・新生活の妄想でふやけきっている頭の底にも、自分の生活についての苦い反省が、ちょいちょい角を擡げてくるのを感じないわけに行かなかった。「生活の異端……」といったような孤独の思いから、だんだんと悩まされて行った。そしてそれがまた幼い子供らの柔か・・・ 葛西善蔵 「贋物」
出典:青空文庫