・・・もと支那の皇帝であられた宣統帝は、今では何の収入もない境ぐうにいられる中から、手もとにありたけの一万元を寄附された上、今後の生活費として売りはらうつもりでいられた高貴な宝石、道具二十余点を売って十五万元のお金をよこされました。 そのほか・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・水先案内が、人の難船するのを待っていて自分の収入にするのと同じ事だわ。だがね、やっぱりそのお前さんは可哀そうな女なのね。まあ、手負いのようなものだわ。手負いが自分の身をはかなむように、お前さんも自分の身をはかなんでいるのだわ。お前さんの意地・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・父親の遺産のおかげで、こうしてただのらくらと一日一日を送っていて、べつにつとめをするという気も起らず、青扇の働けたらねえという述懐も、僕には判らぬこともないのであるが、けれど青扇がほんとうにいま一文も収入のあてがなくて暮しているのだとすれば・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・どれくらいの収入があるものです、と母が聞くから、はいる時には五百円でも千円でもはいります、と朗らかに答えたが、母は落ちついて、それを幾人でわけるのですか、と言ったので、私はがっかりした。本屋を営んでいるものとばかり思い込んでいるらしい。けれ・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・が一体どのくらいの収入になるものか、今度逢ったら思い切って一つ聞いてみてやろうと思っている。同じ「感傷」を売り付けるにしても小説家や映画製作者に比べてみると実に可哀相なみじめな商売である。これはやはり買ってやる方がいいと思う。憎むにはあまり・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・「ここの経済は、それでもこのごろは桂さんの収入でやっていけるのかね」私はきいた。「まあそうや」雪江は口のうちで答えていた。「お父さんを楽させてあげんならんのやけれどな、そこまではいきませんのや」彼女はまた寂しい表情をした。「・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・「いまお父さんは市の収入役してるよ、アメリカ人でも、フランス人でもお父さんのところへ相談にくるんだよ」「フーム」 私は写真帳を見ながら、すっかり感心してしまった。そして林が何故、私のこんにゃく売りを軽蔑しないか、それがわかった気・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・それを合算すると、つまり銀行の帳簿のように収入と支出と平均します。すなわち人のためにする仕事の分量は取りも直さず己のためにする仕事の分量という方程式がちゃんと数字の上に現われて参ります。もっとも吝で蓄めている奴があるかも知れないが、これは例・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・ 毒もみ収支計算 費用の部 一、金 二両 山椒皮 一俵 一、金 三十銭 灰 一俵 計 二両三十銭也 収入の部 一、金 十三両 鰻 十三斤 一、金 十両 その他見積り ・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・彼女の二十四時間は何と計画的につかわれているでしょう。収入がどんなにこまかく割当計画されているでしょう。 その新帰朝者という人は、こういう若い女性のいじらしい大努力に立つ計画性にはふれていない生活環境にいるのでしょう。彼の周囲には、ぐち・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
出典:青空文庫