・・・その意地をわれわれから取り除けてしまったならば、われわれは腰抜け武士になってしまう。徳川家康のエライところはたくさんありますけれども、諸君のご承知のとおり彼が子供のときに川原へ行ってみたところが、子供の二群が戦をしておった、石撃をしておった・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・余が枕辺近く寄って、その晒しを取り除けた時、僧は読経の声をぴたりと止めた。夜半の灯に透かして見た池辺君の顔は、常と何の変る事もなかった。刈り込んだ髯に交る白髪が、忘るべからざる彼の特徴のごとくに余の眼を射た。ただ血の漲ぎらない両頬の蒼褪めた・・・ 夏目漱石 「三山居士」
・・・それからよし道徳の分子が交っていても倫理的観念が何らの挑撥を受けない――否受け得べからざるていの文学もまた取り除けて考えていただきたい。それらを除いた上でこの二種類の文学を見渡して見ると浪漫主義の文学にあってはその中に出てくる人物の行為心術・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・私のここにインデペンデントというのは、この故意を取り除ける。次には奇人を取り除ける。気が付かないのも勘定の中に這入らない。それじゃあどういうのがインデペンデントであるか。人間は自然天然に独立の傾向を有っている。人間は一方でイミテーション、一・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・ ブルジョア経済機構が、何んとしても取り除けない矛盾を内部に持っているために、ブルジョア文化は螺旋状に低下する許りだ。 誤謬を誤謬として認識し得ないブルジョア・イデオロギーに対してプロレタリアの世界観はブルジョア・イデオロギーに科学・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・それをとりまいて見物している神々が笑いどよめいた声に誘われて、好奇心を動かされた女酋長がちょいと岩戸を隙かしたところを、手力男命が岩を取り除けて連れ出したという物語である。これは天照大神が女の酋長であったと同時に、その氏族の中では機も織り、・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫