・・・なるほどそう言えば、私が話しかけてもとんちんかんな受け答えばかししていたのは、いつものこととはいいながら、ひとつにはやはりそのせいもあったのかも知れない。それにしても、そんな心配をするくらいなら、また、もしかすると私にも恥をかかすようなこと・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・それを極まり悪そうにもしないで、彼の聞くことを穏やかにはきはきと受け答えする。――信子はそんな好もしいところを持っていた。 今彼の前を、勝子の手を曳いて歩いている信子は、家の中で肩縫揚げのしてある衣服を着て、足をにょきにょき出している彼・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・の圏内で受け答えをするようになった。「いったいどうする気なんだい」「どうする気だって、――むろんもらいたいんですがね」「真剣のところを白状しなくっちゃいけないよ。いいかげんなことを言って引っ張るくらいなら、いっそきっぱり今のうち・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・と云う受け答えをして、すぐ起きた。そうして患者のために何かしている様子であった。 ある日回診の番が隣へ廻ってきたとき、いつもよりはだいぶ手間がかかると思っていると、やがて低い話し声が聞え出した。それが二三人で持ち合ってなかなか捗取らない・・・ 夏目漱石 「変な音」
・・・ 一寸眉を寄せたきりで知らん顔をして居る私を、弟はチラッと見たなり返事もしずに投げてよこすので、私も受け答えをして居るうちに又気が入って、まるで二つの顔を忘れて居ると又孝ちゃんの声が、「君ーッ。と怒鳴るので頭を曲げて見る・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・若い連中に好きなようにしゃべらせておいて、時々受け答えをするくらいのものであった。特によくしゃべったのは赤木桁平で、当時の政界の内幕話などを甲高い調子で弁じ立てた。どこから仕入れて来たのか、私たちの知らないことが多かった。が、ほかの人たちが・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫