・・・しかるに受賞者の作品を一読するに及び、告白すれば、私、ひそかに安堵した。私は敗北しなかった。私は書いてゆける。誰にも許さぬ私ひとりの路をあるいてゆける確信。 私、幼くして、峻厳酷烈なる亡父、ならびに長兄に叩きあげられ、私もまた、人間とし・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・何事かと思って出てみると、国際電報によって昨年度と今年度のノーベル賞金の受賞者の名前の報知が届いた、その一人はアインシュタインで、もう一人はコーペンハーゲンのニールス・ボーアという人だそうだが、このボーアという人はいったいどんな人でどういう・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
先達て「リビヤ白騎隊」というイタリー映画の試写を観る機会を得た。原作はフランスのジョセフ・ペイレのゴンクール受賞作品だそうで、ファッショ紀元十五年度のムッソリーニ賞杯獲得映画である。筋は単純なものである。クリスチアーナとい・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・当時の文学のありようから、真の新進、精鋭は見出し難く、受賞の範囲は、それぞれの作家の若々しい未来を鼓舞し祝福する方向に赴かず、寧ろ、多難な文学の道をこれまでの何年間か努力をつづけて今日に到っているという作家への、慰労賞めいたものとなった。文・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ラルフ・バンチ博士はパレスチナ紛争調停の功によって、黒人として初のノーベル賞受賞者である。 バンチ博士の話の中で次の数行に関心をひかれた人は少くないだろうと思う。「人間は社会関係の方面では、自然科学の方と同じような天才を示さない」「自然・・・ 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
出典:青空文庫