・・・テエヌはやはり受身の考えかたですものね。バルザックの矛盾を闡明し得ぬ同時代的矛盾を自身のうちにもっている。ブランデスは品がいい天質のひとですね、私はやはり同じ作家の研究について、そういう感じをうけました。そして、ところどころで思わずにやつい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・私は太郎の遊んでいる姿を眺め、この可愛い小僧の精神の中に、どれ丈この生温い、受身な、姑息な生活気分を打開する力がこもっているかと思います。そしてどうかこの小僧が成長する時代が活溌であって、おのずからいきいきとした雰囲気に呼吸して育つようであ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・歴史の現実にたいしてはっきりと目を開いていないそのような受け身の状態は、それなりまたずるずるとわたしたちの生活を犠牲にしてしまう危険をふくんでいる。すべての社会現象の全体の関係を人民生活の前に開いてみせず、任意な現象だけをきりとって、さまざ・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・その場合、女のひとの感情は、何となし型にはまって、昔ながらの受け身な風で、涙を抑えながら出発を見送って旗を振る、というようなおさめかたであったように思う。 男の側から気持をそういう方向にもってゆく場合が目立ってとらえられていたというのも・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・或は避けたという気もなくておのずから主人公は自身の悲劇に対してより受け身な平助にきめられて行ったとすれば、それとして心理の動機はどういうものなのだろうか。 丹羽氏の場合、私たちの記憶には「或る女の半生」その他のいわゆる系譜的作品の主人公・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・生れるという主格の受動性を示す文法上での表現は、とりも直さず我々人間が歴代、子として親を選択することも出来ず、誕生の環境を予測することも出来ず、実に受け身に生まれたのであるという深刻な現実における関係を語っている。而も、一旦生まれた以上、我・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・そして、まだしっかりと民主化していない日本の多くの心、受け身に政治への不信を抱いている一般の感情にいつとはなし作用して、反民主的な諸傾向を逆に民主的なものとしてのみ込む習慣をつけようと企てられはじめた。 すべての職場のひとは、組合の民主・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・ それ等の窓々を渡って眺めて行く私共は、東京と云う都市に流れ込み、流れ去る趣味の一番新しい断面をいつも見ているようなものではないだろうか。受身に私共の観賞を支配される形ではあるが、一都市が所有する美の蔵の公平な認識者、批評家として、趣味・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・ 女の人がひとりになると自堕落になるとか、いろいろの誘惑が危険であるというのは、外部との結びつき方を、受身に見て云うことで、その人々の心持ちを主にして、その側から見れば、その気持の中に、自堕落にさせたり、ちょっとした好奇心や誘いかけにも・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・あまりに受身で過ぎた。民主主義文学への翹望は高いのに、何故戦争に対する人民としての批判をもった文学、婦人が母親として、愛人として、また婦人に対して重荷の多い社会の中で経済的に自分が働いて家の柱となって来たその経験について、女の人が文学を書き・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫