・・・しかし、よく見かけるのはいずれも山に対してあまり抒情的であり、しかもその抒情性がいかにも東洋風で、下界の人間の臭気から浄き山気へのがれるというような感情のすえどころから語られているのが、いつも何か物足らない心持をおこさせる。今日のひとが山を・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・とは、後篇の抒情性そのものさえごく観念的にまとめあげられている作品であるから、その作品の世界のなかでいくつかの断崖をなしている観念の矛盾はおのずからくっきりと読者の目にも映じ、作者自身がよそめに明らかなその矛盾を知ろうとしないので、まるでそ・・・ 宮本百合子 「観念性と抒情性」
・・・その点を作者ははっきりつかんでいない。抒情的にまとめられたのは却って弱くしている。「やもめ倶楽部」には、闘病者が永年の間に経済問題から家庭を失ってゆく過程と心理とが描かれてゆく。これも、実に多いケースの物語であろうと思う。病者の孤独、そ・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・作者藤村氏が、抒情的な粘着力をもって縷々切々と、この主人公とそれをめぐる一団の人々の情感を語りつつ、時代の力、実利と人間理想とが歴史の波間でいかに猛烈にかみ合い、理想の敗北が箇人的生涯の悲惨として現れるかということを一般人生の姿として冷たく・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・当時社会のきびしい階級、身分制度によって動かすことの出来なかった堰で、互の人間的発露を阻まれた男女、親子、親友などのいきさつが浄瑠璃者の深情綿々とした抒情性で訴えられている。義理と人情のせき合う緊迫が近松の文学の一つのキイ・ノートであった。・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・たとえば家の障子というものの感覚は、私たちの感情に結びついたもので、障子をはりかえたときのさわやかな気持だの、障子の上の雪明りだの日本の抒情に深い絆がひそんでいる。けれども、今日では普通の家の障子は、随分とひどい紙で張られていて、紙の美しさ・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・石原とのいきさつも叙情的幸福。 ×夏目漱石の墓 アドバンテージ 妻君 門下 故先生 Сижки Суми 二十五歳 一寸した小会社の娘 変りものを以て任ず。 東洋大学で同・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 放浪の詩情こそ、そのひとの文学の一管の笛である、という抒情的評価をかち得ているある作家は、日本の小市民の生活につきまとううらぶれとあてどない人生への郷愁の上に財をつんだ。そして、男の子を貰い、学習院に入学させている。「あすこは父兄が、・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・青野氏が抒情的な筆致で「民衆の真実」をとりあげた場合、一般化していわれる民衆という言葉は、一般化して云われる真実とひとしくほんとに抽象名詞であるという感がふかい。民衆の真実は何であろうかと思わずにはいられないのが活きた今日の人情なのである。・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・は手馴れたかきかたで、大人の常識と少年の心情のくいちがいのモメントをとらえ、先生を慕い信頼する少年の感情を描いている、しかし全体を抒情性でばかり貫いていて、特に終りの河原の場面は安易な映画の情景のように通俗的におちいっている、冒頭の、少年を・・・ 宮本百合子 「選評」
出典:青空文庫