・・・従って抽象的であり、且つ独り合点の事があって、叙述が充分ではなかったかも知れません。然し、あれはあの儘で是非御目にかける必要がございます。言葉に表現する事は非常に困難なほど、私の心に喰い込んで起った現象なのでございますから。私は先生が、あの・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・主人公の気もちの叙述でだけ書いてあるのを、もう少しつきはなして、立体的に、社会的なひろがりをもってとり扱われたら、力のある作品になったろうと思う。〔一九三四年十月〕 宮本百合子 「小説の選を終えて」
・・・しかし、あの論文の書きかたは技術的に理論のアクロバットであったし、第三者に対しても論点を明瞭に示して、問題を正しく会得させてゆくために必要な客観的叙述にかけていたのは残念でした。文学評論が、論争の当事者にだけわかり、その感情を刺激しあうよう・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・著者はこの三百二十余頁の小冊子の中に、人間の能動的意志としての歴史を科学的に叙述しようと努力しているばかりでなく、それを「新しいヒューマニズムの観点からの叙述」とし、読者の知識慾に答えると共に人類の営々たる進歩のための努力、献身への共感を呼・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・るということは取りも直さず、社会の全体性と切り離され、対立的に見られる一俗人としての弱さ、自己撞着などを、何故それが彼の中にあるかという真剣な、真に芸術らしい解剖にまでは肉迫することのない縷々綿々的な叙述で描かれることであるかのように思われ・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・味での社会性を余り持たなかったため、例えば、保田与重郎氏が、先頃和泉式部論をかいて、藤岡博士の和泉式部観に反対し、結局は筆者自身、このよさが分らないものにこのよさは分らない、というような主観的な美文的叙述をしていても、恐らく本当の国文学の研・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・ ゴーリキイが、人間生活を観る持ち前の鋭い目で、学生達とデレンコフとの関係を省察している叙述は様々の時代的な示唆や、ゴーリキイの誇高い、不屈な気質の一面を示して興味がある。ナロードニキに対するデレンコフの態度はゴーリキイのそれと同じであ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・というものを書いて、委しくこの家の事を叙述しているから、loco citato としてここには贅せない。Monet なんぞは同じ池に同じ水草の生えている処を何遍も書いていて、時候が違い、天気が違い、一日のうちでも朝夕の日当りの違うのを、人に・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・その趣意は、あんな消極的思想は安寧秩序を紊る、あんな衝動生活の叙述は風俗を壊乱するというのであった。 丁度その頃この土地に革命者の運動が起っていて、例の椰子の殻の爆裂弾を持ち廻る人達の中に、パアシイ族の無政府主義者が少し交っていたのが発・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・しかし先生がある作品を叙述しそれへの視点を我々に説いて聞かせる時、我々の胸にはおのずからにして強い芸術への愛が湧きのぼらずにはいなかった。一言に言えば、先生は我々の内なる芸術への愛を煽り立てたのである。これはあの講義の事実的内容よりもはるか・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
出典:青空文庫