私が改造の正月号に「宣言一つ」を書いてから、諸家が盛んにあの問題について論議した。それはおそらくあの問題が論議せらるべく空中に漂っていたのだろう。そして私の短文がわずかにその口火をなしたのにすぎない。それゆえ始めの間の論駁・・・ 有島武郎 「想片」
・・・ 一人口火を切ったから堪らない。練馬大根と言う、おかめと喚く。雲の内侍と呼ぶ、雨しょぼを踊れ、と怒鳴る。水の輪の拡がり、嵐の狂うごとく、聞くも堪えない讒謗罵詈は雷のごとく哄と沸く。 鎌倉殿は、船中において嚇怒した。愛寵せる女優のため・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・この老先生がかねて孟子を攻撃して四書の中でもこれだけは決してわが家に入れないと高言していることを僕は知っていたゆえ、意地わるくここへ論難の口火をつけたのである。『フーンお前は孟子が好きか。』『ハイ僕は非常に好きでございます。』『だれに習・・・ 国木田独歩 「初恋」
・・・こういう風に、聯想の火薬に点火するための口火のようなものを巧みに選び出す伎倆は、おそらく俳諧における彼の習練から来たものではないかと思われる。もう一つの例は『一代女』の終りに近く、ヒロインの一代の薄暮、多分雨のそぼ降る折柄でもあったろう「お・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・陳氏はそれを受けとってよく調べてから、「よろしい。口火。」と云いました。も一人の子は、もう手に口火を持って待っていました。陳氏はそれを受けとりました。はじめの子は、シュッとマッチをすりました。陳氏はそれに口火をあてて、急いでのろし筒に投・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・世界の一般恐慌切りぬけ策として、帝国主義日本は他のブルジョア国とともに第二次世界戦争を計画し、その口火として近くソヴェト同盟侵略戦争を始めようとしている。つまり、世界の勤労大衆の中からもり上って来る革命力ぶっ潰しの第一陣を日本の帝国主義が買・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・なぜなら、国連に参加している国々の内部にも、第三次世界大戦の口火をつけようとして公然戦争を挑発している人たちがいるのである。もし必要ならば、それらの人々の名を明示することもできる。こんにちの世界で、どこの国の人民に対しても、原子兵器を使って・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・とデモを行って、ロシアのプロレタリア革命への口火となった二月の革命ののろしをあげた。 第二次大戦ののちは一九四五年十一月、国際民主婦人連盟が各国の婦人デーの意義をうけついで、世界平和の確保と民族の自立、婦人・子供の生活を守ってファシ・・・ 宮本百合子 「婦人デーとひな祭」
・・・さりとて、当時の民衆派たちが、自身を解放の指導者、口火として、外部から民衆に接触して行った、そういう資格において彼を評価しようとすれば、ゴーリキイはそのようなインテリゲンツィアとして、うけいれられない。又、その必要もなかったと思われたであろ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 帝国主義日本はすでに満蒙を侵略し、ソヴェト同盟攻撃をもって口火を切るべき第二次世界戦争を実に着々と準備している。来るべき第二次世界戦争と十八年前の第一次世界戦争との違うところは、今度世界戦争が始ればそれは世界の帝国主義と世界のプロレタ・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
出典:青空文庫