・・・(巻初に記して一粲に供した俗謡には、二三行、…………………………………… 脱落があるらしい、お米が口誦を憚「いやですわね、おじさん、蝶々や、蜻蛉は、あれは衣服を着ているでしょうか。――人目しのぶと思えども・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・を主題として交響楽を創り、ドラクロアのアトリエではユーゴオの小唄が口誦まれた。そして、ユーゴオ、ゴオチェ、メリメのような作家たちは、創作の間に絵を描いた。実に彼等は「すべての芸術において美しい色彩や情熱や文体を」ねらったのであった。 け・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・誰かが低い声で、問題になった初秋や名も文月の恋の謎と口誦んだ。 さっきから、あっちの小高い亭にも、鳥打帽をかぶった若者が頻りに楽焼の下絵を描いている。たった一人で、前に木版ずりの粉本を置き、余念ない姿だ。亭のまわりの尾花・・・ 宮本百合子 「百花園」
出典:青空文庫