・・・広い道を横切って行き、人々の肩の間から覗くと、台の上に円を描いた紙を載せて、円は六つに区切り、それぞれ東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸の六大都市が下手な字で書いてある。台のうしろでは二十五六の色の白い男が帽子を真深に被って、「さア張・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ ちょうど一と区切りついたから向きなおる。藤さんは少し離れて膝を突いている。「お召し物も来たんでしょう?――では早くお着換えなさいましな。女の着物なんか召しておかしいわ」と微笑む。自分は笑って、袖を翳してみる。「さっきね」と、藤・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・いずれは仕事に区切りがついたら萱野君といっしょに訪ねたいと思います。しばらく会わないので萱野君の様子はわからない。きょう、只今徹夜にて仕事中、後略のまま。津島修二様。早川生。」 月日。「玉稿昨日頂戴しました。先日、貴兄からのハガ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・これが持ち出される日は、私の単調な一年中の生活に一つの著しい区切りを付ける重要な日になっている。もう明日あたりは涼み台を出そうじゃないかという事が誰かの口から云い出される。しかしその翌日が雨であったり、そうでなくても色々の事に紛れたりしてつ・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・話の筋をよく暗記しておいて、林が一と区切りする毎に、私も本を見ないで通訳をした。 学芸大会では拍手喝采だった。各小学校の校長先生たちや、郡長さん始め、県の役人なども沢山いるところで、私たちは非常に面目をほどこしてから、受持の先生に引率さ・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・おまけにおそろしく早口で、抑揚も区切りもないので、よくわからないが、しかし三吉には何かしら面白かった。ロシヤ革命とボルシェヴィキ。レーニン。ロシアの飢饉と反革命。それから鈴木文治や、アナーキズムへの攻撃。――ことに三吉には話の内容よりも、弁・・・ 徳永直 「白い道」
・・・しゃべる事はあるのですが、秩序とか何とかいう事が、ハッキリ句切りがついて頭に畳み込んでありませぬから、あるいは前後したり、混雑したり、いろいろお聴きにくいところがあるだろうと思います。ことにあなた方の頭も大分労れておいででしょうから、まずな・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・これは当地の中流以下の用うる語ばで字引にないような発音をするのみならず、前の言ばと後の言ばの句切りが分らないことほどさよう早く饒舌るのである。我輩はコックネーでは毎度閉口するが、ベッジパードンのコックネーに至っては閉口を通り過してもう一遍閉・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・さっきも云った隣との区切りの唐紙が、普通の襖紙で貼ってなく、新聞の附録の古くさい美人画や新聞や、そこらに落こちていた雑誌の屑のようなもので貼られていた。幾年か昔、この長屋が始めて建ったときには、そこだってきっとおばさん達のいる方のように、茶・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・筆を握って瞬きもせずそのはっきりした四角な区切りを見つめていると、ひとりでに手が動いてどうしても右から先に落ちる。はっとする間もなく、私は次の一字も右側から先に書き出してしまった。 後から覗いていた母は、黙って、私の手を肩越しに掴んだ。・・・ 宮本百合子 「雲母片」
出典:青空文庫