・・・ 暫くぽつんとしていると、廊下のあっちの方で、「お客様にお火をさしあげて?」と云っている尚子のきき馴れた高い声がした。「あら。どうして? すぐ持って来て下さいよ、お茶もね」 区切りのドアが開くと一緒に尚子の言葉がすぐそこ・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・初めの一区切りは六百番まで入ったのだが、傍聴券は数の制限なしに出されるものだろうか。一般傍聴席は婦人席の五六十人分を入れて、七八百ぐらいあるのかしら。きょうは特別多いんでございますって、そういう声もしている。休会あけが十日のびたというばかり・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
藤村がフランスにいた間に、十九世紀というものを世界的な感情で感得し、日本の十九世紀というものを描きたく思ったということ。そして、十九世紀を維新後と徳川時代との区切りで見ず、昔をただ反動保守の力としてばかり見ず、その中・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
・・・あの濠と土手とによる大きい空間の区切り方には、異様に力強い壮大なものがある。しばらく議事堂や警視庁の建築をながめたあとで、眼を返してお濠と土手とをながめるならば、刺激的な芸のあとに無言の腹芸を見るような、もしくは巧言令色の人に接したあとで無・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫