・・・よって件の古外套で、映画の台本や、仕入ものの大衆向で、どうにか世渡りをしているのであるから。「陽気も陽気だし、それに、山に包まれているんじゃない、その市場のすぐ見通しが、大きな湖だよ、あの、有名な宍道湖さ。」「あら、山の中だって、お・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・シナリオに従って精細な撮影台本が作られなければならない。それには撮影さるべき対象選定はもちろんそれがいかなる条件においていかに撮影さるべきかが具体的に精細に設計規定されなければならない。それができて後に関係部員のそれぞれの部署が決定されなけ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・もちろんこれらの連句はさらにより多く発声映画のシナリオとして適切なものであるが、しかし適当に使えばここにいわゆるモンタージュ的放送の台本としてもまた立派に役立つものと思われる。 以上はただ、放送事業の実際にうとい一学究のはなはだしい空想・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・勿論台本がああなっていたのだろうが、前半の写実風を一貫させるなら、深草少将の身代りに、口惜しさのあまり「そなたと契ろうよ」とかなり正面から哀切にゆき、身代りがあわてふためき覆面をかなぐりすて、「やつがれは六十路を越したる爺にて候」と・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・ 健全な演劇というものは、特定の観念をテーマとした台本を上演するということだけで決して解決しない。わかり切っているこんなことが、しかし、案外の困難にぶつかっているのではないかしら。 ラジオなどできく落語が、近頃は妙なものになって・・・ 宮本百合子 「“健全性”の難しさ」
・・・前線での文学の夕べを組織し、即興芝居への台本を提供した。壁新聞を手伝った。 その演習後文学新聞に赤軍指導者の面白い批判が掲載された。 今度の経験によってもロカフの組織は、プロレタリア作家の階級的発展に必須な一分野であることが明らかに・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 築地の左翼劇場では、警官が出張して台本と首っ引で坐っているよ。あの通りを行ってるんじゃないか? それに近いような噂だぜ。 ――……実にデマが利いているんだなあ。 ――嘘かい? ――ソヴェトのプロレタリアートや彼等の党は偏執狂じ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫