・・・またかと思うような号外売りがこの町の界隈へも鈴を振り立てながら走ってやって来て、大げさな声で、そこいらに不安をまきちらして行くだけでも、私たちの神経がとがらずにはいられなかった。私は、年もまだ若く心も柔らかい子供らの目から、殺人、強盗、放火・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ 号外。 女中は、みなに一枚一枚くばって歩いた。――事変以来八十九日目。上海包囲全く成る。敵軍潰乱全線に総退却。 Kは号外をちらと見て、「あなたは?」「丙種。」「私は甲種なのね。」Kは、びっくりする程、大きい声で、笑・・・ 太宰治 「秋風記」
・・・また、がむしゃらに打ちふるのでは号外屋の鈴か、ヒトラーの独裁政治のようなものになる。自由はわがままや自我の押し売りとはちがう。自然と人間の方則に服従しつつ自然と人間を支配してこそほんとうの自由が得られるであろう。 暑さがなければ涼しさは・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・の両方を見較べられる位置に主任が腕組みをしている。「編輯会議にはあなたも出ていたそうじゃないか、ほかに誰々が出ていました?」 日本プロレタリア文化連盟では二月選挙のとき「大衆の友」の号外を発行し、ブルジョア選挙のバクロと階級的候補者・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 十月二十五日の夜臨時政府内閣が捕縛されたときの号外が、そこに貼られていた。 未来の交代者 ソヴェト同盟が、この地球でたった一つの社会主義国として自分の国を守り、将来、社会主義的社会をますます完成させて行く・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・安樹兄、福井市にゆき始めて東京大震災 不逞鮮人暴挙の号外を見つけ驚きかえる。自分等葡萄棚の涼台で、その号外を見、話をきき、三越、丸の内の諸ビルディング 大学 宮城がみなやけた戒厳令をしいたときく。ぞっとし、さむけがし、ぼんやりした。が全部信・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ その辺には号外やら夕刊がとり散らされてある。どれにも、各所に籠城した罷業従業員達の動静や街上風景を写真ニュースで報じ、「怖し羞し背広の車掌」「非常時運転がこぼすユーモア」「笑いをのせて」などと云う記事が面白可笑しく出ている。一方山下又・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・ 日本プロレタリア文化連盟に結集する各文化団体は、それぞれの機関誌を特輯号とし、あるいは号外を刊行して、同志小林の英雄的殉難を記念し、虐殺に抗議し、労農葬に向って大衆を召集しつつその復讐を誓った。 野獣の如き軍事的警察的テロルの虐殺・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・〔『大衆の友』号外〕小林多喜二特輯号を編輯した。十二月〔二十六〕日。宮本顕治は九段上でスパイのため売り渡され、検挙された。スパイは当時日本共産党東京地方に活動していた渾名亀こと高橋であった。一九三三年は文学的には殆ど活動不可・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 刻々切迫する情勢につれて、後から後からと出されたケレンスキー内閣の号外、指令、それに対して一層実践的な批判的な布告で大衆を革命へまで指導して行った共産党の印刷物、十数年後の今日でも吾々の心をヒッ掴んで鼓舞する力をもっている。ケレンスキ・・・ 宮本百合子 「ロシアの過去を物語る革命博物館を観る」
出典:青空文庫