・・・ぐるりと後に廻ると、開く扉はあったが、司祭控室らしく、第一、下駄で入ってはわるそうだし困って、私は、附属家の手入れをして居たペンキ屋に、掛りの人の居処を聞いて見た。灌木の茂みの間の坂を登り切ったところに、大理石の十字架上の基督像を中心とした・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・ぐるりと裏に廻ると別に入口があり、ここは易々と開いたが、司祭の控室らしく、白い祭服のかかっている衣裳棚などがある。第一、塵もない木の床を下駄で歩いては悪そうだし、困って私は彼方此方を見渡廻した。樟の木蔭に、附属家屋のペンキを剥して、職人が一・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・翻訳しながら読むのでは疲れるから、もっとさっぱりした簡単なのがよいというので、「トゥールの司祭」を開いて読んでゆく。そして、そのうちに彼は、はたと逡巡する。「これが女性の大集会の毛細管を通じて投げ出される文句の実体である」これでは生物学の講・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・本に描かれている多くの主人、司祭は、実際のものといつもきっと、どこか違う。―― 指導してのないために乱読せざるを得なかった十三歳のゴーリキイが、現実と文学との間に在るこの微妙な一点に観察を向け得たという事実は、注目すべきことであると思う・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・その時分ロシアの辺鄙な田舎の果でもツァーの官吏や司祭らが、どんな腐敗した醜聞的日常生活を営んでいたかは、その時の経験を書いた「番人」その他にはっきり現れている。 ニージュニイで再び急進的インテリゲンツィアの群に加わった。情勢は移って「資・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・彼はこの間にいやという程ツァー時代のロシア官吏、司祭等の腐敗した生活ぶりの証人となった。 ニージュニへ再び戻ってからは或る弁護士の書記の口を見つけた。二年の間ゴーリキイは書記をする傍ら同じ市の急進的なグループとつき合っていたが、その時代・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・寧ろ先ず神話の結成を学問上に綺麗に洗い上げて、それに伴う信仰を、教義史体にはっきり書き、その信仰を司祭的に取り扱った機関を寺院史体にはっきり書く方が好さそうだ。そうしたってプロテスタント教がその教義史と寺院史とで毀損せられないと同じ事で、祖・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・エルリングが指さしをする方を見ると、祭服を着けた司祭の肖像が卓の上に懸かっている。それより外にはへんがくのようなものは一つも懸けてないらしかった。「あれが友達です。ホオルンベエクと云う隣村の牧師です。やはりわたしと同じように無妻で暮していま・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫