・・・何人もが世界平等の苦痛を共に嘗め、共に味わなくてはならないように、各人の生活内容が変ってきた時、其処から初めて新しい感激が湧き、本当の愛が生れてくるだろう。然し私は、社会改造の事実は各人の信念にその根底を置くものだと考えている。そうして此の・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・なぜなら、幸福の解釈は、各人の考え様如何にあるのであって、その人が、生活の上に、また哲学を有するか否かに原因するものであります。 かゝる場合は、決して、物質が、その人の幸福を決定する物指とはならない。野鼠に於けるがごとく、人間が着て食べ・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・而して人間の娯楽にはすこしく風流の趣向、または高尚の工夫なくんば、かの下等動物などの、もの食いて喉を鳴らすの図とさも似たる浅ましき風情と相成果申すべく、すなわち各人その好む所に従い、或いは詩歌管絃、或いは囲碁挿花、謡曲舞踏などさまざまの趣向・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・すなわち芸術に対する感受性は必ずしも各人に普遍的なものではないから、ヴィエイが感得しないある物をケラーが感じるという可能性は残っている。 ヘレン・ケラーは生後十八ヶ月目に重い病のために彼女の魂と外界との交通に最も大切な二つの窓を釘付けさ・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・さらにおもしろいことは、その特別な週期が各人の身体の構造の異同で少しずつちがい、それが結局は各個人の、腰掛けた位置に相当する固有振動週期を示すものらしいということである。 このおもしろい研究の結果を聞かされたときに、ふと妙な空想が天の一・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・読者は試みに例えば、マルキシズムに対する現代各人各様の態度を「あまりに深く信をおこして」以下の数行にあてはめて見るとなかなかの興味があるであろう。ありとあらゆる可能な態度のヴァリアチオンが列挙してあるので、それらの各種の代表者を現代の吾々の・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・神輿の運動の変異量と、その質量や舁夫の人数、各人の筋力、体量等との間に或る量的関係を見いだすことは充分可能でありそうに思われる。 今、たとえば、次のような問題があったとする。一年三百六十五日間における日々の甲某百貨店の第X売り場における・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
・・・それで各人が自分の感覚のみをたよって互いに矛盾した事を主張し合っている間は普遍的すなわちだれにも通用のできる事実は成り立たぬ、すなわち科学は成り立ち得ぬのである。 それで物質界に関する普遍的な知識を成立させるには第一に吾人の直接の感覚す・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・ ○ 文学者を嫌うのも、検事を憎むのも、それは各人の嗜性に因る。父の好むところのものは必しも児のよろこぶものではない。嗜性は情に基くもので理を以て論ずべきではない。父と子と、二人の趣味が相異るに至るのは運命の戯・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・固より各人に割り宛てれば僅かなものに違ないけれども、一つの短篇について、三十円乃至五十円位な賞与を受ける事が出来たなら、賞与に伴う名誉などはどうでも可いとして、実際の生活上に多少の便宜はある事と信ぜられるからである。こうすれば雑誌の編輯者と・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
出典:青空文庫