・・・一度、二度と間を置くうち、去年七月の末から、梅水が……これも近頃各所で行われる……近くは鎌倉、熱海。また軽井沢などへ夏季の出店をする。いやどこも不景気で、大したほまちにはならないそうだけれど、差引一ぱいに行けば、家族が、一夏避暑をする儲けが・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・学者を日本に派遣して大学地震研究所におけるあらゆる研究の模様を習得せしめよということ、次に末広所長を米国に迎えて講演させ、また米国における将来の研究方針についてその助言を求め、また末広式の地震分析器を各所に据え付けて地盤の固有振動の検出を試・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・クラカトア火山の爆破の時に飛ばされた塵は、世界中の各所に異常な夕陽の色を現わし、あるいは深夜の空に泛ぶ銀白色の雲を生じ、あるいはビショップ環と称する光環を太陽の周囲に生じたりした。近頃の研究によると火山の微塵は、明らかに広区域にわたる太陽の・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・奈路 この地名は土佐各所の山中にある。アイヌで「ノル」は熊の足跡であるが、ことによると「ナ」河流と「ロロ」または「ロッ」上座の義かもしれぬ。この地名は大抵河の畔にあるから。また朝鮮で「ナル」は山であるがこれであるかもしれない。御畳瀬・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・その暑さに冬服を着て各所を歴訪した。夜寝ようとするとベッドが焼けつくようで眠られない。心臓の鼓動が異常に烈しくなる。堪え兼ねてボーイを呼んで大きな氷塊を取寄せてそれを胸に載せて辛うじて不眠の一夜を過ごした。その時に氷塊を持ってぬっと出現した・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・ 四五月ごろ全国の各所でほとんど同時に山火事が突発する事がある。一日のうちに九州から奥羽へかけて十数か所に山火事の起こる事は決して珍しくない。こういう場合は、たいてい顕著な不連続線が日本海から太平洋へ向かって進行の途中に本州島弧を通過す・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・ 午前五時、午前九時、正午十二時、午後三時、午後六時には取入口から水路、発電所、堰堤と、各所から凄じい発破の轟音が起った。沢庵漬の重石程な岩石の破片が数町離れた農家の屋根を抜けて、囲炉裏へ飛び込んだ。 農民は駐在所へ苦情を持ち込んだ・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・ 彼等は、上野の山で解散したデモのくずれが、各所で狼火のような分散デモを行うことを、かくも戦々兢々と恐怖していたのである。 自分は初め、何のために高等へ出しておかれたのか分らなかった。初めは恐らく自分に日本の発達した警察網の活動ぶり・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・どれにも、各所に籠城した罷業従業員達の動静や街上風景を写真ニュースで報じ、「怖し羞し背広の車掌」「非常時運転がこぼすユーモア」「笑いをのせて」などと云う記事が面白可笑しく出ている。一方山下又三郎の名で「総罷業の首謀者四十五名に解傭を通告」と・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・それから〔五〕月まで私の住んでいた本郷区の各所が連続的に破壊され、〔四〕月には巣鴨拘置所だけを残して周辺が焼野原となった。その空襲の翌朝、同居していた人に頼んで拘置所を見に行って貰い、それだけが残ったことを知った。治安維持法被告の非転向者は・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫