・・・進んだ時も夢中であったんやが、さがる時も一生懸命――敵に見付かったらという怖さに、たッた独りぽッちの背中に各種の大砲小銃が四方八方からねらいを向けとる様な気がして、ひどう神経過敏になった耳元で、僕の手足が這うとる音がした。のぼせ切っておった・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・ ――手をかえ、品をかえ、丹造が広告材料に使った各種の売名行為のなかで、これだけはいくらか世のためになったといえるのがあるとすれば、貧病者への無料施薬がそれであろう。しかし、それとて真に慈善の意志から出たものか、どうかは、疑わしい。・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・『まさか』と自分は打消て見たが『しかし都は各種の人が流れ流れて集まって来る底のない大沼である。彼人だってどんな具合でここへ漂って来まいものでもない、』など思いつづけて坂の上まで来て下町の方を見下ろすと、夜は暗く霧は重く、ちょうどはてのな・・・ 国木田独歩 「まぼろし」
・・・中川沿岸も今でこそ各種の工場の煙突や建物なども見え、人の往来も繁く人家も多くなっているが、その時分は隅田川沿いの寺島や隅田の村でさえさほどに賑やかではなくて、長閑な別荘地的の光景を存していたのだから、まして中川沿い、しかも平井橋から上の、奥・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・近代になって、これが各種の伝染病菌の運搬者、播布者として、その悪名を宣伝されるようになり、その結果がいわゆる「蠅取りデー」の出現を見るにいたったわけである。著名の学者の筆になる「蠅を憎むの辞」が現代的科学的修辞に飾られて、しばしばジャーナリ・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・その際における口のまわりの運動の仕事の大部分が何に使われるかと思ってみると、それは各種の母音に適応するように口腔の形と大きさを変化させるために使われているのである。そしてこういう声を出さずに口だけ動かす読み方では子音を発するに必要な細かい調・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・科学が進歩するにつれてその取り扱う各種の概念はだんだんに吾人の五官と遠ざかって来る。従って普通人間の客観とは次第に縁の遠いものになり、言わば科学者という特殊な人間の主観になって来るような傾向がある。近代理論物理学の傾向がプランクなどの言うご・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・しかもそれらの各種の論文は互いに相鼎立して、どちらも、それ自身としては正当でありうるのである。ただそれらの間の優劣を区別する場合の目標は、著者の主観によって選まれた問題の構成のしかたとその解法の選択いかんによって決定されるのであって、この優・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 政府の所属で、各種科学の特殊な専門的題目の研究所として看板をかけた処では、比較的にいくらか自由である。しかし、例えば蚯蚓の研究所で鯨の研究をやりたいといったような場合には、ともかくも一応上長官の諒解を得るために、その研究の結果がその研・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・そのほかになかなか美しい人形や小箱なども陳列してあったが、いちばん自分の注意をひいたのは児童教育のために編纂された各種の安直な絵本であった。残念ながらわが国の書店やデパート書籍部に並んでいるあの職人仕立ての児童用絵本などとは到底比較にも何も・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
出典:青空文庫