・・・ 右と左に少し丈の低い立派な人が合掌して立っていました。その円光はぼんやり黄金いろにかすみうしろにある青い星も見えました。雲がだんだんこっちへ近づくようです。「南無疾翔大力、南無疾翔大力。」 みんなは高く叫びました。その声は林を・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・「合掌礼拝。森君よ。ずっと向うに見えて居るのは何でしょう。あれは死ですね。最も賢き人は死を確と認めて居ますね。十二月七日。祈祷。」 次にわたくしは芥川氏に聞いた二三の雑事をしるして置く。香以の氏細木は、正しくは「さいき」と訓むのだそうで・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・ 世界は鵜飼の遊楽か、鮎を捕る生業かということよりも、その楽しさと後の寂しさとの沈みゆくところ、自らそれぞれ自分の胸に帰って来るという、得も云われぬ動と静との結婚の祭りを、私はただ合掌するばかりに眺めただけだ。一度、人は心から自分の手の・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・彼らはおのずから頭を垂れ、おのずから合掌して、帰依したる者の空しい、しかし歓喜に充ちた心持ちで、その「偶像」を礼拝する。 それは確かに彼らにとって「偶像」であった。彼らの知る所は、ただそれが、無限の力と最高の権威とを有する仏の姿だという・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫