・・・傾向ばかり見て感心するより、こういう感心のしかたのほうが、より合理的だと思っているから。○ほめられれば作家が必ずよろこぶと思うのは少し虫がいい。○批評家が作家に折紙をつけるばかりではない。作家も批評家へ折紙をつける。しかも作家のつけ・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
菊池は生き方が何時も徹底している。中途半端のところにこだわっていない。彼自身の正しいと思うところを、ぐん/\実行にうつして行く。その信念は合理的であると共に、必らず多量の人間味を含んでいる。そこを僕は尊敬している。僕なぞは・・・ 芥川竜之介 「合理的、同時に多量の人間味」
・・・然らば我等は今日よりも合理的に娑婆苦を嘗むることを得べし。 死 マインレンデルは頗る正確に死の魅力を記述している。実際我我は何かの拍子に死の魅力を感じたが最後、容易にその圏外に逃れることは出来ない。のみならず同心円をめぐ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・従って、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった。しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くと云う事が、それだけで既に許すべからざる悪であった。勿論、下人は、さっきまで自分が、盗人になる気でい・・・ 芥川竜之介 「羅生門」
・・・ブルジョア階級の崩壊を信ずるもので、それが第四階級に融合されて無階級の社会の現出されるであろうことを考えるものであるけれども、そしてそういう立場にあるものにとっては、第四階級者として立つことがきわめて合理的でかつ都合のよいことではあろうけれ・・・ 有島武郎 「想片」
・・・自分の実生活と周囲の実生活との間に或る合理的な関係をつくらなければ、その芸術すら生み出すことができないと感ずる種類の人である。第三の種類に属する人は、自分の芸術を実生活の便宜に用いようとする人である。その人の実生活は周囲の実生活と必ずしも合・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・これらについても十分の研究なり覚悟なりをしておくのが、事の順序であり、必要であるかもしれないけれども、僕は実にそういう段になると合理的になりえない男だ。未来は未来の手の中にあるとしておこう。来たるべきものをして来たるべきものを処置させよう。・・・ 有島武郎 「片信」
・・・故に一人に対して現実に触れて居るとか触れて居ないとかいう事を眼に見えると否とに依って云々する事は甚だ不合理の事であって、人間のセンチメント、即ち作者の神経、感情の貫くところ――努力の通ずるところが悉く現実の世界であるという事は明かである。そ・・・ 小川未明 「絶望より生ずる文芸」
・・・しかるに、指導的立場にあるものゝ無自覚と産業機関の合理化は、新興文学の出現とその発達を拒んでいます。 しかし、このことも、幾千万児童の精神文化の問題であり、次代の新社会建設を約束するものなるが故に、解放の暁が迫っています。ひとり搾取の対・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・もし、個人的に、社会的に、合理的に動きつゝあるなら、そして、かくの如く、必然に向って、働きつゝあるなら、この社会は、いまゝでにも、もっとより善く、より正しくならなければならぬと感じられるからです。 けれど、私達は、いかに、かく都会に喧騒・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
出典:青空文庫