・・・そうして、ジャンパーと、それから間着の背広服を一揃い持っている。肉親からの仕送りがまるで無い様子で、或る時は靴磨きをした事もあり、また或る時は宝くじ売りをした事もあって、この頃は、表看板は或る出版社の編輯の手伝いという事にして、またそれも全・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・この間着ていた人を見たけれども可笑しいです。あまり見っとも宜いものではない。殊に女なんぞは、二十年前の女の写真なんぞは非常に可笑しい。本来の意味では可笑しいとは自分で思っていないけれども、熟々見ると、やはり模倣ということに重きを置く結果、ど・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・から、段々職業婦人というものが多くなって、女の外出ということが繁くなるに従って、一つは綺麗ではあるが二三年でもう棄ててしまう安もの――棄ててしまっても何等惜しくないのを着る者と、他は高価ではあるが永い間着て悪くならないつまり「持ちのいい」も・・・ 宮本百合子 「二つの型」
出典:青空文庫