・・・ 我ら十七名の会員は心霊協会会長ペック氏とともに九月十七日午前十時三十分、我らのもっとも信頼するメディアム、ホップ夫人を同伴し、該ステュディオの一室に参集せり。ホップ夫人は該ステュディオにはいるや、すでに心霊的空気を感じ、全身に痙攣を催・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・悪くすると、同伴に催促されるまで酔潰れかねないのが、うろ抜けになって出たのである。どうかしてるぜ、憑ものがしたようだ、怪我をしはしないか、と深切なのは、うしろを通して立ったまま見送ったそうである。 が、開き直って、今晩は、環海ビルジング・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・「ははあ、御同伴の奥さんがお待兼ねで。」「串戯じゃない。」 と今度は穏かに微笑んで、「そんなものがあるものかね。」「そんなものとは?」「貴下、まだ奥様はお持ちなさりませんの。」 と女房、胸を前へ、手を畳にす。・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ と黒い外套を着た男が、同伴の、意気で優容の円髷に、低声で云った。「そう。でも大鯛をせるのには、どこでもああするのじゃアありません?……」 人だちの背後から覗いていたのが、連立って歩き出して、「……と言われると、第一、東京の・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ 半蔵門の方より来たりて、いまや堀端に曲がらんとするとき、一個の年紀少き美人はその同伴なる老人の蹣跚たる酔歩に向かいて注意せり。渠は編み物の手袋を嵌めたる左の手にぶら提灯を携えたり。片手は老人を導きつつ。 伯父さんと謂われたる老人は・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・良人沼南と同伴でない時はイツデモ小間使をお伴につれていたが、その頃流行した前髪を切って前額に垂らした束髪で、嬌態を作って桃色の小さいハンケチを揮り揮り香水の香いを四辺に薫じていた。知らないものは芸者でもなし、娘さんでもなし、官員さんの奥様ら・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・まをわれいつまでか忘るべき、貴嬢は微かにアと呼びたもうや真蒼になりたまいぬ、弾力強き心の二郎はずかずかと進みて貴嬢が正面の座に身を投げたれど、まさしく貴嬢を見るあたわず両の掌もて顔をおおいたるを貴嬢が同伴者の年若き君はいかに見たまいつらん。・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・然し同伴者が同伴者だからね。」と神崎の方を向く。神崎はただ「フフン」と笑ったばかり、盃をあげて、ちょっと中の模様を見て、ぐびり飲んだ。朝田もお構いなく、「現に今日も、斯うだ、僕が縁とは何ぞやとの問に何と答えたものだろうと聞くと、先生、こ・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・ 梅子さんを私の同伴者に貰いたいと常に願っております!」きっぱりと言い放って老先生の眼睛を正視した。「もし乃公が与らぬと言ったらどうする?」「致し方が御座いません!」「帰れ! 招喚にやるまでは来るな、帰れ!」と老人は言放って寝返・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・とお秀は関わず同伴に来る。二人の少女の影は、薄暗いぬけろじの中に消えた。 ぬけろじの中程が恰度、麺包屋の裏になっていて、今二人が通りかけると、戸が少し開て居て、内で麺包を製造っている処が能く見える。其焼たての香しい香が戸外までぷんぷんす・・・ 国木田独歩 「二少女」
出典:青空文庫