・・・ しかも、銑吉が同座で居た。 余計な事だが――一説がある。お誓はうまれが東京だというのに「嬉しいですわ。」は、おかしい。この言葉づかいは、銀座あるきの紳士、学生、もっぱら映画の弁士などが、わざと粋がって「避暑に行ったです。」「アルプ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・そういう話が同座の人々の中で一致した。あとで、或る人が「しかし、あの人の作品は、純粋であろうとして、現在出来上っている境地をこわすよりは、それを守ろうとする傾向が強いんじゃないですか。その点やっぱり志賀直哉のすじを引いていると云えるんじゃな・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
・・・そして、同座の中野好夫に向って、あなたもこれから批評家としてやって行くためにはこの点だけはよく心得ておきなさい、といった意味を、きわめて高びしゃに申しわたしている。批評家中野好夫は、林の僭越さにむっとしたからこそ沈黙をもって答えたのだったろ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・終りに近く、作家の書く態度の一つとして、私は自分が現実に対して人情に堕せず、非人情に描いて行く力を欲しているという意味のことを云った。同座していられた宇野千代さんが、それに賛成され、本当にそうしたら亭主のことでも悪く書けていい、という意味の・・・ 宮本百合子 「パァル・バックの作風その他」
・・・そのころ私は鵠沼に住んでいた関係で、あまりたびたび木曜会には顔を出さなかったし、またたまに訪れて行った時にはその連中が来ていないというわけで、漱石生前には一度も同座しなかった。従ってそういうことに気づいたのは漱石の死後である。 木曜・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫