・・・僕はそこへ二、三人の同級の友達と通って行った。清水昌彦もその一人だった。「僕は誰にもわかるまいと思って水の中でウンコをしたら、すぐに浮いたんでびっくりしてしまった。ウンコは水よりも軽いもんなんだね」 こういうことを話した清水も海軍将・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・同室同級の藤岡蔵六も、やはり謹厳の士なりしが、これは謹厳すぎる憾なきにあらず。「待合のフンクティオネンは何だね?」などと屡僕を困らせしものはこの藤岡蔵六なり。藤岡にはコオエンの学説よりも、待合の方が難解なりしならん。恒藤はそんな事を知らざる・・・ 芥川竜之介 「恒藤恭氏」
・・・ところが同級の生徒と比べて非常に何も彼も出来ないので、とうとう八級へ落されて仕舞った。下等八級には九つだの十だのという大きい小供は居なかったので、大きい体で小さい小供の中に交ぜられたのは小供心にも大に恥しく思って、家へ帰っても知らせずに居た・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・と相川は布施の方を指して、「布施君――矢張青木君と同級です」 布施は髪を見事に分けていた。男らしいうちにも愛嬌のある物の言振で、「私は中学校に居る時代から原先生のものを愛読しました」「この布施君は永田君に習った人なんです」と相川は原・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・A君は、私と中学校同級であった。画家である。或る宴会で、これも十年ぶりくらいで、ひょいと顔を合せ、大いに私は興奮した。私が中学校の三年のとき、或る悪質の教師が、生徒を罰して得意顔の瞬間、私は、その教師に軽蔑をこめた大拍手を送った。たまったも・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・ 中学四年頃のことであったかと思う。同級のI君が脚気で亡くなったので、われわれ数人の親しかった連中でその葬式に行った。南国の真夏の暑い盛りであった。町から東のO村まで二里ばかりの、樹蔭一つない稲田の中の田圃道を歩いて行った。向うへ着いた・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・この紙屋というのは竹村君と同郷のもので、主人とは昔中学校で同級に居た事がある。いつか偶然に出くわしてからは通りがかりに声を掛けていたが、この頃では寄るとゆるゆる店先へ腰を下ろして無駄話をして行く。主人の妹で十九になる娘が居て店の奥の方でちら・・・ 寺田寅彦 「まじょりか皿」
・・・ 母親は、三吉と小学校で同級だった町の青年たちの名をあげて、くりごとをはじめる。早婚な地方の世間ていもあるだろうが、何よりも早く倅の尻におもしをくっつけたい願望がろこつにでていた。「――牛は牛づれという。竹びしゃく作りには竹びしゃく・・・ 徳永直 「白い道」
・・・まだ病気にならぬ頃、わたくしは同級の友達と連立って、神保町の角にあった中西屋という書店に行き、それらの雑誌を買った事だけは覚えているが、記事については何一つ記憶しているものはない。中西屋の店先にはその頃武蔵屋から発行した近松の浄瑠璃、西鶴の・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・山田美妙斎とは同級だったが、格別心やすうもしなかった。正岡とはその時分から友人になった。いっしょに俳句もやった。正岡は僕よりももっと変人で、いつも気に入らぬやつとは一語も話さない。孤峭なおもしろい男だった。どうした拍子か僕が正岡の気にいった・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
出典:青空文庫