・・・元来競争となるとたいていの場合は同種同類に限るようです。同種同類でないと、本当の比較ができないからでもあるし、ひとつ、あいつを乗り越してやろうと云う時は、裏道があってもかえって気がつかないで、やっぱり当の敵の向うに見える本街道をあとを慕って・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・その仲間の中にも往々才力に富み品行賤しからざる者なきに非ざれども、かかる人物は、必ず会計書記等の俗役に採用せらるるが故に、一身の利害に忙わしくして、同類一般の事を顧るに遑あらず。非役の輩は固より智力もなく、かつ生計の内職に役せられて、衣食以・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・これを、かの世間の醜行男子が、社会の陰処に独り醜を恣にするにあらざれば同類一場の交際を開き、豪遊と名づけ愉快と称し、沈湎冒色勝手次第に飛揚して得々たるも、不幸にして君子の耳目に触るるときは、疵持つ身の忽ち萎縮して顔色を失い、人の後に瞠若とし・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・「お父様、毛皮の外套なんか召すからこの犬、同類だと思うのよ」と、その間にも、父は時々、「シッ! シッ!」と言ったり、砂を抓んで投げつける振りをしたりする。何か本気で不安を感じているらしいのが佐和子に分った。父は、元から犬など嫌い・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
・・・その小悪魔の嗅覚が、ごくの身近に、やはり目さめている性の異なった同類をかぎつけて、しかも親睦をむすぶすべもない条件を、そんな野蛮さで反撥したのであったろうと思う。 兄弟、姉妹の間にあるそういう微妙で苦しいものも、親たちにとっては一律に子・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・を撒くと、同類の胸も平気で刺すから愉快なものだ。ヴィンダー さてもう一息だ。俺の力の偉大さは、小さなものには著わされぬ。あの壮麗らしく人工の結晶を積みあげた街をつぶして呉れよう。斯う三叉でくじって、先ず屋体に罅を入らせる。一ふきふいごで・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・p.226 ツワイクはDとレンブラントとを同類としている。しかしこれは当っているだろうか、明と暗との対比が似ているからと云って? レンブラントの暖かさはDの何処に? これはDの対立の分析の正確さをこわすほど安易な対比である。・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
出典:青空文庫