・・・細かく表現はされないが、何となく虫が好かない、そういうことは名優と云われる人に対しても私たちが自分のこととしては主張出来る筈のことである。そして、虫は好かないけれど、演技は傑出しているというところを自分の好悪からはなして観るような芸術鑑賞の・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・それだのに、どうして、芸術座はアンナ・カレーニナを上演し、名優タラーソヴァの演技は、世界の観客をうつのだろう。タラーソヴァと芸術座の演出者は、こんにち地球にのこっている資本主義の社会の上流で、アンナ・カレーニナの悲劇が生きられていることを歴・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・「まあ、貴方、郡山さ芝居が掛りましたぞえ、東京の名優、尾上菊五郎ちゅうふれ込みでない。外題は、塩原多助、尾上岩藤に、小栗判官、照手の姫、どんなによかろう。見たいない。 祖母の顔を見るやいなや、婆さんは、飛び立った様にその小さ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ しかし、この間、何年ぶりかで「プラーグの栗並木の下で」を観て、俳優生活というものについて、これまでになく心を動かされるものがあった。 名優が、老年になってから自分の思い出を本にかくことがよくある。スタニスラフスキーの思い出は厚い本・・・ 宮本百合子 「俳優生活について」
・・・ 新協の俳優が、他のどの劇団にもない歴史的な立場と任務とを持っていることは明らかであり、その自覚から各人が人及び芸術家として、日本の過去の如何なる名優も持たなかった希望と誇りとを持つことは当然です。けれども、その新しい歴史性の自覚は、そ・・・ 宮本百合子 「一つの感想」
・・・このためここの白い看護婦たちは、患者の脈を験べる巧妙な手つきと同様に、微笑と秋波を名優のように整頓しなければならなかった。しかし、彼女たちといえども一対の大きな乳房をもっていた。病舎の燈火が一斉に消えて、彼女たちの就寝の時間が来ると、彼女ら・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫