・・・かしこの山ここの川から選り集めた名園の一石一木の排置をだれが自由に一寸でも動かしうるかを考えてみればよい。しかもこれらのいっさいを一束にしても天秤は俳諧連句のほうへ下がるであろう。 連句はその末流の廃頽期に当たって当時のプチブルジョア的・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかしこの名園は災禍の未だ起らざる以前既に荒廃して殆その跡を留めていなかった。枕橋のほとりなる水戸家の林泉は焦土と化した後、一時土砂石材の置場になっていたが、今や日ならずして洋式の新公園となるべき形勢を示している。吾人は日比谷青山辺に見るが・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・東京で名高い名園などでも杉苔を見なかったからである。しかし京都から移って来て数年後に東京の西北の郊外に住むようになってみると、杉苔は東京にもざらにあることがわかった。農家の防風林で日陰になっている畑の畔などにはしばしば見かける。散歩のついで・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫