・・・ その一人は、近国の門閥家で、地方的に名望権威があって、我が儘の出来る旦那方。人に、鳥博士と称えられる、聞こえた鳥類の研究家で。家には、鳥屋というより、小さな博物館ぐらいの標本を備えもし、飼ってもいる。近県近郷の学校の教師、無論学生たち・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・然し、そう行かなかった場合――第一、彼女が標準とする社会的地位、名望と云うものの標準が異った場合、母上は、又私に於て繰返したと同じ苦悩を経られるのではないだろうか。 自分は、決して彼女が愚でない丈、苦しみの多いのを知り、どうかしてあげた・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ 父の名望の為にことなくすみ、ハフは、当時の青年の流行通り、軍隊に加りました。早速フランスに出発すべきであったのに、ロンドンの盛り場で妙な女と遊び歩き、帰隊を後らせた為、軍法会議に附せられました。今度も父の有力な地位と戦時中のおかげで、・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ 先頃、二晩つづいて東京に提灯行列のあった一夜、現代日本の最も名望ある雑誌の或る会合が催された。その社としては懐古的な意味をもった催しであったが、主幹に当る人はそのテーブル・スピーチで今日社が何十人かの人々を養って行くことが出来るのも偏・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
・・・さすがの美人が憂に沈でる有様、白そうびが露に悩むとでもいいそうな風情を殿がフト御覧になってからは、優に妙なお容姿に深く思いを寄られて、子爵の御名望にも代られぬ御執心と見えて、行つ戻りつして躊躇っていらっしゃるうちに遂々奥方にと御所望なさった・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫