・・・をとりあげた場合、一般化していわれる民衆という言葉は、一般化して云われる真実とひとしくほんとに抽象名詞であるという感がふかい。民衆の真実は何であろうかと思わずにはいられないのが活きた今日の人情なのである。 大衆の中の進歩的要素と知識人が・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・ 箇人主義と云う思想上の一名詞が考え出されない以前から、既にアメリカ人の生活は、箇人箇性を基本に置いたものであった。アメリカが植民地時代から、独立的気風は各人の内心に燃えていた。それは、遠い昔、政治的思想的に紛糾を重ねた欧州の故国を去っ・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・という意味をいったそうである。そういう一言はピンと誰の胸にも来る。そういう現実の中では読者の興味も極めて具体的な面をもっているのである。 「作家」という名詞の内容 やはり『文芸』の八月号を見ていて感ずることであ・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・国威というものの普通解釈されている内容によって、それを或る尊厳、確信ある出処進退という風に理解すると、今回のオリンピックに関しては勿論、四年後のためにされている準備そのものの中に、主としてそういう抽象名詞を愛好する人の立場から見ても何か本質・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・ 昔の外国のロマンチシズムの時代を顧みるとなかなか興味のあることは、抽象名詞が雄飛した割合に、作品で後にのこるものがないことである。明日の日本の文学が雄大なものであるためには、今日の生活の現実に徹しなければならず赫々たるものに対してはま・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
・・・男の人々も自分の愛する女、妻、家庭と考えると、そういう名詞につれて従来考えられ描かれて来ている道具立てを一通り揃えて考え、職業をもっている婦人だって妻は妻と、その場合自分の妻としてのある一人の女を見ず、妻という世俗の概念で輪廓づけられている・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫