・・・抑も在昔封建門閥の時代に政治を始めとして人間万事圧制を以て組織したる世の中には、男女の関係も自から一般の風潮に従い、男子は君主の如く女子は臣下の如くにして、其尊卑を殊にすると同時に、君主たる男子は貴賤貧富、身分の区別こそあれ、其婦人に接する・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・必ずしも一人の君主または頭取が独り暴威を逞しうして、悉皆他の人民を窘しむるがためにあらず。衆庶の力を集めてこれを政府となしまたは会社と名づけ、その集まりたる勢力を以て各個人の権を束縛し、以てその自由を妨ぐるものなり。この勢力を名づけて政府の・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・いわんやその国に一個の首領を立て、これを君として仰ぎこれを主として事え、その君主のために衆人の生命財産を空うするがごときにおいてをや。いわんや一国中になお幾多の小区域を分ち、毎区の人民おのおの一個の長者を戴てこれに服従するのみか、つねに隣区・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・では、そのようなロマンティックな要素も作品の一つの色彩とはしつつ、作者はぐっとリアリスティックに心理と経済の事情にまで広く多岐に踏みこんで、一人の君主の死が、武家社会に波及させた悲劇と生死の幾とおりもの姿を描き出している。作者はこの事件をめ・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ 本当に、日本が民主の国柄となり、男も女も、笑って働いて、生きて行ける国になるために、今日共産党が、真の民主主義を求めて、主権が君主にある制度に反対していることは近い将来において、必ずや正当であったことを、歴史の事実によって証明されるで・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
封建社会のモラルは、日本でもヨーロッパでも、簡単な善と悪とのふたすじにわけられていた。そこでは、君主、家長の絶対権力をより維持しやすくする考え方や行動が善であり、その反対に、支配者の絶対権に何かの不安や疑問をさしはさむこと・・・ 宮本百合子 「地球はまわる」
・・・持ち前の進取の気風で、君主がローマ綴で日記をつけ、ギヤマン細工を造り、和蘭式大熔鉱炉を築き、日本最初のメリヤス工場を試設したが、その動機には、外国の開化を輸入して我日本を啓蒙しようとする、明かな受用の意志が在る。長崎の人々が南蛮、明の文化に・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・などをみると大名の君主とその家来との間にあった極端な形式主義を足場にしたのに対して割合に人間らしい常識を持っていた忠直卿がジリジリしてその腹立ちを当時の君主らしい乱暴狼藉に現わした。そして大名を辞めて殿様でなくなったらすっかりカラッとすんだ・・・ 宮本百合子 「“慰みの文学”」
・・・ 一八三〇年七月革命後、常に蝙蝠傘をもって漫画に描かれた優柔不断のルイ・フィリップがブルジョアジーの傀儡君主として王位についた時、一層凡庸化し、銭勘定に終始する俗人共の世界に反抗して、ユーゴー、ド・ミッセ、デュマ、メリメ、ジョルジュ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・社会党が、勤労人民の味方のように演説をしながら、勤労人民の苦痛の原因となっている旧い日本の君主に主権のある政治の形をどこまでも守ろうとしていて、それが所謂「民意」であるかのように見せているわけもこの表を見ると、全く肯けて来る。社会党九二名中・・・ 宮本百合子 「春遠し」
出典:青空文庫