・・・ところがこの老博士は今年八十四五歳であり、君子であり品格をもった国宝的建築家でありますが、現実の社会事情からは些か霞の奥に在る。ために国男はじめ所員一同具体的な生活的な面で安心して居られず、という有様です。せちがらさを、この老大家は道徳的見・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・向高は、少し本をよんだので「先に小人、後に君子」の道理をのみこめたし、生存の利害はきっちり春桃に結ばれていたし、嫉妬してはならないと云ったから、彼はその種子さえも踏みにじってしまった。李茂にしても、春桃のところから出てほかのどこへ行きたかろ・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・当時、その師父等と交誼のあった日本の君子等は、勿論知識と信仰とに呼醒されたこともあったに違いないが、純粋にその渇仰のみによってそうだったのだろうか。日本に於ける基督教布教史は当時乱世の有様に深く鋭く人生の疑問も抱いた敏感な上流の若い貴公子、・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 山田君子さんの「わたくしは生きる」、「だがわたくしはまだ貞操は売らないぞ」という最後のさけびは、人々の心につきささるようだ。「まだ」という一言になんという人生の内容がつめられているだろう。 四一、未亡・・・ 宮本百合子 「「未亡人の手記」選後評」
・・・これは尊卑を主とする道徳であり、したがって貴族主義的である。君子道徳と結びつき得る素地は、ここに十分に成立しているのである。 この道徳の立場は、「敵を愛せよ」という代わりに「敵を敬せよ」という標語に現わし得られるかもしれない。「信玄家法・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫