・・・が、奉行が何度吟味を重ねても、頑として吉助は、彼の述べた所を飜さなかった。 三 じゅりあの・吉助は、遂に天下の大法通り、磔刑に処せられる事になった。 その日彼は町中を引き廻された上、さんと・もんたにの下の刑・・・ 芥川竜之介 「じゅりあの・吉助」
・・・「旦那聞いてください、わし忌ま忌ましくなんねいことがあっですよ、あの八田の吉兵エですがね、先月中あなた、山刈と草刈と三丁宛、吟味して打ってくれちもんですから、こっちゃあなた充分に骨を折って仕上げた処、旦那まア聞いて下さい其の吉兵エが一昨・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・ たゞ、文芸の士に於ては、後世に遺した仕事の吟味である。果して、彼等の幾何、再検討を請求して、敢て恥ざるものがあるか、ということである。孤行高しとすることこそ、芸術家の面目でなければならぬ、衆俗に妥協し、資本力の前に膝を屈した徒の如きは・・・ 小川未明 「ラスキンの言葉」
・・・義というものわれらが中に絶えずば交わりは勉めずとも深かるべし、ただわが言うべきを言わしめたまえ、貴嬢のなすべきことは弁解を力むることにはあらで、諸手を胸に加え厳かに省みたもうことなり、静かにおのが心を吟味したもう事なり、今われ実にかの人を愛・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・だが、それらの一つ一つの各作家に於いても、あまりに重要でない作品に対して吟味を与えることは、恐らくそう必要ではなかろう。それよりは、一九三一年の満州上海事変とその後に於て、ファッショ文学が動員されている如く、既に一八九四年の最初の戦争から一・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・材料も吟味し、木理も考え、小刀も利味を善くし、力加減も気をつけ、何から何まで十二分に注意し、そして技の限りを尽して作をしても、木の理というものは一々に異う、どんなところで思いのほかにホロリと欠けぬものでは無い。君の熔金の廻りがどんなところで・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・れいのご深遠なご吟味をまたおはじめになったのでございましょうか。私、こんなになるだろうということは、はじめから知っていました。でも私、ひょっとするとあの霊感とやらがあらわれて、どうやら私を生かしきることができるのではないかしら、とあなたのた・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・ 一日おいて二十五日に、白石は早朝から吟味所へつめかけた。午前十時ごろ、奉行の人たちもみんな出そろって着席した。やがてシロオテも輿ではこばれてやって来た。 きょうは、だいいちばんに、あのオオランド鏤版の地図を板縁いっぱいにひろげて、・・・ 太宰治 「地球図」
・・・ 最も意外に感じた事は自分が比較的によく体験し体得しているつもりでいた専門の学問上の知識の中にもよくよく吟味してみると怪しい部分が続々発見された。他人の研究を記述した論文を如何によく精読したところで、その研究者自身の頭の中まで潜り込む事・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・ この作業仮説の正否を吟味しうるためには、われわれは後日を待つほかはない。もし他日この同じ地方に再び頻繁に地鳴りを生ずるような事が起これば、その時にはじめてこの想像が確かめられる事になる。しかしそれまでにどれほどの歳月がたつであろうかと・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
出典:青空文庫