・・・遠くに犬の吠える声がする。 きょう島田から達治さん入営の時の写真が届きました。島田のお家の前の往来に一杯御父上、母上、軍服を着た達治さん、むっつりした隆治さん、国旗を手にした信吉叔父上その他を中心に見送りの男の人達が円く溢れたところをと・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・他に「吠える」「長崎紀行」「白い翼」などを書いた。一九二六年「伸子」完結。「一太と母」「未開な風景」等。一九二七年「伸子」を単行本にする為に手入れをしながら「高台寺」「帆」「白い蚊帳」「街」「一本の花・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・――おまけに、その犬は、世間普通な犬の吠え方を知らないのか忘れるかしている。吠える声を聞くといつも遠吠えだ。死人の魂を動物の本能が感じて恐怖するという遠吠えだ。ワオーと、鼻にぬかして遠吠えする。 天気のいい、そして、或る私が最も神経的に・・・ 宮本百合子 「吠える」
・・・と吼える者がある。「本読みは退屈な程長くつづく。」ゴーリキイは聴き草臥れる。それにもかかわらず、彼にはその挑戦的な鋭い言葉が気に入った。それらの云われていることは「容易に簡単に、説得的な思想に編みこまれて行く。」ところが、突然読みての声・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・鬼の人形マトリョーナ婆吠える、吠える 狼のようだほんとに生きててもはじまらない! 書物はこの境遇の中で、ゴーリキイに生きる力の源泉となったと同時に、限りない屈辱、軽侮、不安を蒙る原因となった。 製図師一家と同じ建・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫