・・・夫人の語るところによれば、こは詩人トック君の強烈なる煙草を愛したる結果、その心霊的空気もまたニコティンを含有するためなりという。 我ら会員はホップ夫人とともに円卓をめぐりて黙坐したり。夫人は三分二十五秒の後、きわめて急劇なる夢遊状態に陥・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・またわずかな含有灰分の相違が炭の効果に著しい差を生ずることも可能なのは他の膠質現象から推して想像されなくはない。 臓器から製した薬剤の効果がその中に含有するきわめて微量な金属のためであって、その効果はその薬を焼いて食わせても変わらないら・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 魚貝のみならずいろいろな海草が国民日常の食膳をにぎわす、これらは西洋人の夢想もしないようないろいろのビタミンを含有しているらしい。また海胆や塩辛類の含有する回生の薬物についても科学はまだ何事をも知らないであろう。肝油その他の臓器製薬の・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・食物に譬えれば栄養価は乏しくても豊富なるビタミンを含有していた。そうして他にはこれに代わるべき御馳走はほとんどなかった。それが、大正昭和と俳句隆盛時代の経過するうちに、栄養に富んだ食物も増し料理法も進歩したことはたしかであるが同時にビタミン・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・そして、賢明なあなたは、そういう意味であの作品が含有している作家史的意味の重大さ及び、作家の才能の真の発展と社会的、境遇的事情との相関関係についての意味深い暗示を与えていることをよく理解していらっしゃるでしょうから。 作家野上彌生子は、・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・例えば免囚保護という言葉に、はっきり女性の免囚も含有す、という意識があるか。 従来、女と云えば誰人かの娘、妻、姉妹、という附属的地位にあった。女性が刑務所を出てからどうすると云う問題も、彼女等に帰るところ、かえってから養って貰うところが・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・るが、社会の歴史のいかなる高まりもそれ以前の数々の必然からもたらされるとおり、文学におけるその声が或る画期的な意味をもっているという一つの事実は、その事実の内に、あらゆる従前からの諸問題の経過の本質を含有して来ているという事実を抹殺するもの・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・ 今日、日本ではやっている日本的といわれるものの中に多分な翻訳的性質が含有されていることは、一つの顕著な時代的性格である。 小林秀雄氏は、先頃僕らは自分が日本人であるか西洋人であるかはっきり分らないと云う意味のことを書いた。ところが・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫