・・・この日から酸素吸入をさせました。そして、彼が度々「何か利尿剤を呑む必要がありましょう、民間薬でもよろしいから調べて下さい」と言いますので、医師に相談しますと、医師はこの病気は心臓と腎臓の間、即ち循環故障であって、いくら呑んでも尿には成らず浮・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・これを譬えば、毒物を以て直にこれを口に喰らわしめずして、その毒を瓦斯に製し空気に混じて吸入せしむるが如し。これを無情といわざるを得んや。鬼蛇の名称差支なかるべし。 また一種の主人あり。これを公務家と名づく。甚だしき遊蕩の沙汰は聞かれざれ・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・私はひどいセキで吸入をしたりキンカンの汁をのんで居ります。 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ただ最後に酸素吸入器だけが、彼女の枕元で、ぶくぶく泡を立てながら必死の活動をし始めた。 彼は妻の上へ蔽い冠さるようにして、吸入器の口を妻の口の上へあてていた。――逃がしはせぬぞ、というかのように、妻の母は娘の苦しむ一息ごとに、顔を顰めて・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫