・・・ と中腰に立って、煙管を突込む、雁首が、ぼっと大きく映ったが、吸取るように、ばったりと紙になる。「消した、お前さん。」 内証で舌打。 霜夜に芬と香が立って、薄い煙が濛と立つ。「車夫。」「何ですえ。」「……宿に、桔・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・そいつはいくらでも金を吸い取るからな。」 松本は、また、誰れを指すともなく、しかし、それは、街のあの眼の大きい女であることをほのめかしながら、云った。 ほかの同年兵達が、よそ/\しい疑うような眼をして、兵舎へ這入って来た時、彼は始め・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・これは化膿しないためだと言うが、墨汁の膠質粒子は外からはいる黴菌を食い止め、またすでに付着したのを吸い取る効能があるかもしれない。 寒中には着物を後ろ前に着て背筋に狭い窓をあけ、そうして火燵にかじりついてすえてもらった。神経衰弱か何かの・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・私は冬によくやる木片を焼いて髪毛に擦るとごみを吸い取ることを考えながら云いました。「行こう。今日僕うちへ一遍帰ってから、さそいに行くから。」「待ってるから。」私たちは約束しました。そしてその通りその日のひるすぎ、私たちはいっしょに出・・・ 宮沢賢治 「鳥をとるやなぎ」
・・・今はただできるだけ根を張りできるだけ多く養分を吸い取る事のほかになすべき事はないのです。いよいよ果実が熟した時それがいい味を持っていなくても、私は精いっぱいいい実をならそうと努めたことで満足しようと思います。 とはいえ、自分の才能のこと・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫