・・・せても世間で別段鼻を抓んで苦い顔をするものがないからでもありましょうが、私の所へ時々若い人などが初めて訪問に来て、後から手紙などにその時の感想をありのままに書いて送ってくれる場合などでさえ思いもよらぬ告白をする事があるから面白いです。と云っ・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・その重大な文学的実験を、林氏は自身のルポルタージュで告白しているのである。 将来日本の文学に、ルポルタージュが増大して来るであろうということは、とりも直さず、動いてやまぬ社会は作家に益々より客観的に現実を観得る眼力を要求しはじめているこ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・それぞれの人の告白、傷魂の歌とするにとどまらず、せめては当時の日本のインテリゲンチアの負わされている社会的なマイナスの悲劇として、とらえられないことについて心からの遺憾をあらわしていることも、こんにちの同感を誘う。「冬を越す蕾」のきびし・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・歴史の鏡にうつる姿として今日見れば、婦人についてのそういうさまざまの表現は、とりもなおさず男の気持の裏からの告白であり、女とのいきさつでは男の中にも「あまりにも永い間暴君と奴隷とがかくされていた」ことを計らずも語っていることにもなって来る。・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・更に反対の方面を見ると、信仰もなくしてしまい、宗教の必要をも認めなくなってしまって、それを正直に告白している人のあることも、或る種類の人の言論に徴して知ることが出来る。倅はそう云う人は危険思想家だと云っているが、危険思想家を嗅ぎ出すことに骨・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・尤もこの考えている事というのが、告白であるかないか、矯飾をしていないかという疑問が直ぐに伴って来る。もっと立ち入って云えば、自分では云々と考えていると思っても、それは自ら欺いている、即ち自己のために自己を矯飾しているのかも知れない。そんな風・・・ 森鴎外 「Resignation の説」
・・・その男の告白によると、「僕は夢と云うものをまだ生れてから見たことがない。」と云う。 私にはそれが嘘だとより思えなかった。が、彼はどうかして一生に一度夢と云うものを見たいとしきりに云った。私はこれが「夢を見たことのない男」だと思うと、・・・ 横光利一 「夢もろもろ」
・・・五 告白の欲望はともすれば直ちに製作衝動と間違えられる。もとより体験の告白を地盤としない製作は無意義であるが、しかし告白は直ちに製作ではない。告白として露骨であることが製作の高い価値を定めると思ってはいけない。けれどもまた告・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・一人の求道者の人間知と内的経路との告白を聞くのである。九 利己主義と正義、及びこの両者の争いは先生が最も力を入れて取り扱った問題であった。『猫』は先生の全創作中最も露骨に情熱を現わしたものである。それだけにまた濃厚な諧謔・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・ 苦患に背を向け、感傷的に慟哭し、饒舌に告白する。かくしてもまた苦患の終わりを経験することはできる。しかしそれを真に苦しみに堪えたと呼ぶことはできない。 卑近の例を病気に取ってみよう。病苦は病の癒えるまで、あるいは病が生命を滅ぼすま・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫