・・・またその言葉が多数の西洋人にいろいろの連想を呼び出す力をもっていることも事実である。しかしそれらの連想はおそらく多くは現実的功利的のものであろう。またもしそれが夢幻的空想的であるとしても、日本人のそれのように濃厚に圧縮されたそうして全国民に・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・買ってくれそうな家の付近では繰り返し往復して、それでも買わないとあきらめて行ってしまったのは昔のことで、今ではやはり裏木戸から台所へはいって来て、主人や主婦を呼び出すのが多いようである。「ええ鯉や鯉」というのも数年以来聞かないようである・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・数限りのない友達、絶間ない招待と訪問、その交際範囲は、彼女を呼び出すばかりで一向、両親の家へは訪ねて来ないと云う種類のものです。 美しい縹緻よしのドラは、憚りなく「ああ本当にうちは退屈だわ。早く誰それさんのところへ行きたい」と云います。・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・その芸者が連の芸者を呼び出す。二人で何かささやいてこっちを見る。こっちで見るのは好いが、向うから見られるのは厭だと思って、君は部屋に這入った。向側の騒ぎは夜遅くなるまで続いた。君は床に這入って、三味線の声をやかましく思いつつ寐入った。暫く寐・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫