・・・……御幣とおんなじ事だって。……だから私――まじめに町の中を持ったんだけれど、考えると――変だわね。」「いや、まじめだよ。この擂粉木と杓子の恩を忘れてどうする。おかめひょっとこのように滑稽もの扱いにするのは不届き千万さ。」 さて、笛・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・ 清水につくと、魑魅が枝を下り、茂りの中から顕われたように見えたが、早く尾根づたいして、八十路に近い、脊の低い柔和なお媼さんが、片手に幣結える榊を持ち、杖はついたが、健に来合わせて、「苦労さしゃったの。もうよし、よし。」 と、お・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・……これでは、玉の手を握ろう、紅の袴を引こうと、乗出し、泳上る自信の輩の頭を、幣結うた榊をもって、そのあしきを払うようなものである。 いわんや、銑吉のごとき、お月掛なみの氏子をや。 その志を、あわれむ男が、いくらか思を通わせてやろう・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ポルジイが一度好いと云った女の周囲には、耳食の徒が集まって来て、その女は大幣の引手あまたになる。それに学問というものを一切していないのが、最も及ぶべからざる処である。うぶで、無邪気で、何事に逢っても挫折しない元気を持っている。物に拘泥しない・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・この災害のあとで、「班幣畿内諸神、祈止風雨」あるいは「向柏原山陵、申謝風水之ふうすいのわざわいをしんしゃせしむ」といったようなその時代としては適当な防止策が行われ、また最も甚だしく風水害を被った三千百五十九家のために「開倉廩賑給之」という応・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 今かりに一歩を譲り、倫理教科書中、私徳のことに説き及ぼさざるに非ず、「一家の間は専ら親愛をもってなる云々、一夫一妻にしてその間に尊卑の幣を免かるるは云々」等の語さえあれば、私徳の要ももとより重んずるところなりと説を作すも、本書をもって・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・その記事の傍らに見るものは、連日連夜にわたる幣原、三土、楢橋の政権居据りのための右往左往と、それに対する現内閣退陣要求の輿論の刻々の高まり、さらにその国民の輿論に対して、楢橋書記翰長は「院外運動などで総辞職しない」「再解散させても思う通りに・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・しかも、幣原内閣は、それに対して決して皆の納得ゆくような方針を実現してはいない。にもかかわらず、現内閣は、よたつきながら、今倒れるか、今倒れるかと思われながら、とうとうモラトリアム公表という重大な危機さえ突破して、どういう工合に作成されたも・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・ それでも窓は東と南に開けてありまして、何処の家でも、東の窓は神聖な場所として、此処にイナオと云う内地の御幣に当るものが立ててあります。イナオは木で作った先きの方をじゃがじゃがさせた一種の木幣で、家の守護神様、穀物の神様、水や火の神様に・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・学校当局は、丁度幣原内閣が、増産対策も、食糧対策も現実には持っていなくて自然、働く者の生産参加と人民の食糧管理又は供出の管理に任せなければならないでいるとおりに、学生の問題を学校当局として処理して行く能力を欠いてしまっている。これまでの学校・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
出典:青空文庫