・・・そう言って彼はまた右手の方を指しながら、「あれが和田岬です」「尼ヶ崎から、あすこへ軍兵の押し寄せてくるのが見えるかしら」私は尼ヶ崎の段を思いだしながら言った。「あれが淡路ですぜ。よくは見えませんでしょうがね」 私は十八年も前・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・「和田さんの家は器量統で、その人も美しかったという話や。お士から町家へお嫁づきなすった」 とかく道太と、そして道太と同じ腹から生まれた姉妹とは、その系統はずれであった。「しかしいくつです」「もう七十四です。このお婆さんより二・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・どこで飲んだ、どこで飲んだもねえものだ、おれが飲む処は新橋か柳橋、二重橋から和田倉橋、オットそいつはからくりだよ、何、今夜はね柳橋でね小紫をあいかたで飲みましたよ。オヤ小紫ですってそれなら柳橋じゃない吉原でしょう。ナーニ柳橋にも小紫というお・・・ 正岡子規 「煩悶」
・・・それは、上陸の許否は分らぬがとにかく、和田の岬の検疫所へ行く事を許されたという事であった。上陸せんまでも、泊って居るよりは動いて居る方が善いというのは船中の輿論である。船は日の暮に出帆した。非常にのろい速力でゆっくりと行たので翌日の午後に漸・・・ 正岡子規 「病」
・・・ ――○――○吉田さんのところ、○フィティア 自分の部屋、ダニエルの、和田の。ホール、 ○病院、 ○キャムパス。リス、楓、ぬれて横わるパン、インディアン ダンス○図書館 ○往来、 插話は此処へ入る・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・を書いた和田伝、「鶯」を発表した伊藤永之介等の作家があり、「あらがね」で鉱山の生活を描こうとした間宮茂輔等があった。農村を題材として和田、伊藤の作家が活動し始めたには、前年からの社会的題材への要望、作品の世界の多様化の欲求が一つの動機をなし・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
A ――佃 一郎 自分―― 伸子 父 ――佐々省三 母――多計代 岩本――中西ちゑ子 弟――和一郎 南 ――高崎直子 弟――保 和田――安川ただ/咲森田、岩本散歩 或日曜後藤避暑の話、ミス ・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(一)」
十二月二十六日の午後、毎日新聞社から電話がかかって来た。そして、経済安定本部長官和田博雄が、二十三年度の勤労者のための経済白書を出したから、それについて意見をききたいということだった。わたしは経済について専門の知識はない。・・・ 宮本百合子 「ほうき一本」
・・・ 阿部の屋敷の裏門に向うことになった高見権右衛門はもと和田氏で、近江国和田に住んだ和田但馬守の裔である。初め蒲生賢秀にしたがっていたが、和田庄五郎の代に細川家に仕えた。庄五郎は岐阜、関原の戦いに功のあったものである。忠利の兄与一郎忠・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・信濃国では、上諏訪から和田峠を越えて、上田の善光寺に参った。越後国では、高田を三日、今町を二日、柏崎、長岡を一日、三条、新潟を四日で廻った。そこから加賀街道に転じて、越中国に入って、富山に三日いた。この辺は凶年の影響を蒙ることが甚しくて、一・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫