・・・また第二の方は、さまで面倒もなく損害もなき故、何となく子供の痛みを憐れみ、かつは泣声の喧しきを厭い、これを避けんがために過ちを柱に帰して暫くこれを慰むることならんといえども、父母のすることなすことは、善きも悪しきも皆一々子供の手本となり教え・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・なり、いずれも婦人の方を本にして論を立てたるものにして、今の婦人の有様を憐れみ、何とかして少しにてもその地位の高まるようにと思う一片の婆心より筆を下したるが故に、その筆法は常に婦人の気を引き立つるの勢いを催して、男子の方に筆の鋒の向かわざり・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・一〇 私は彼を愛し、尊敬し、恐れ、憐れみ、そして侮蔑する。 私は愛する者、尊敬する者、恐れる者、憐れむ者、侮蔑する者を持っている。また愛し尊敬する者、愛し憐れむ者、憐れみ侮蔑する者を持っている。尊敬し恐れる者、恐れ侮蔑す・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・漱石はこの作を書いた時より十年ほど前、『吾輩は猫である』を書き出す前後の自分の生活をこの作で書いたと言われているが、しかし作者としての漱石は作の主人公やその細君を一歩上から憐れみながら、客観的に批判して書いている。漱石の心境はもはや同じとこ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
・・・悪のゆえに人間を憐れみ、自ら苦しむ。大きい愛、宗教的な愛…… ――ここにこそ自分の行くべき道があった。私は自分の内にメフィストが住むのもまた無意義でなかったと思う。メフィストがいなければ私の世界も寂しいだろう。メフィストは私の世界を押し・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・私はかつて先生に向かって、愛する者の悪を心から憐れみ愛をもってその悪を救い得るほど愛を強くしたい、愛する者には欺かれてもいいというほどの大きい気持ちになりたいと言った事があった。その時先生は、そういう愛はひいきだ、私はどんな場合でも不正は罰・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫