・・・生存競争が全く個人主義的に行われているから、職業的というとき、ひとよりちょっとでも分をよく立ちまわるということがすぐピンと来るような憐れむべき事情におかれているのです。職業的にやっていると聞いて、はじめてそのひとの技術なり責任感なりが安心し・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ 女性の感情の至純さと、素質の平等、一言に云えば夫人の良人に対する知と云うものに尊敬の払えないような、所謂男らしい欠点を多大に持った人は、こちらの女性に対して、彼の持つ、哀れむべき尊厳を犯される不安から、虚勢を張ってけなしてしまいます。・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・女性を憐れむばかりではなく、半身である女性とともにこそ男の民主的生活への解放があることを知る男らしさを待望いたします。〔一九四六年九月〕 宮本百合子 「自然に学べ」
・・・』 王様が泣きながら怒鳴る前で、宰相は、これもまた涙をこぼしながら、『陛下、恐れながら、耳殻のございました時分、我々の憐れむべき国民は、一度の戦に負けたこともございませんでした』と云って、お辞儀をした」 この話を貴女は、どう・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・否寧ろ、哀れむべきとも云える。人生! 人生? ○イベットを読み、死の如く強しを読む。二者の間のまるで違った感じは、単に訳者の相違からのみ起って来て居るのでないことは、よく分って居る。けれども、その訳の仕振りは、いかにも、訳者二人の箇・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・ゴーリキイは、女をいかなる醜悪な場面、条件においても理解すべきもの、哀れむべきもの、或は愛し尊敬すべきものとして観察し、女の情慾をもある時は一つの驚くべき力として感じている。ゴーリキイはトルストイの女に対する態度に対して純真な疑問を発してい・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・ 私は愛する者、尊敬する者、恐れる者、憐れむ者、侮蔑する者を持っている。また愛し尊敬する者、愛し憐れむ者、憐れみ侮蔑する者を持っている。尊敬し恐れる者、恐れ侮蔑するものもないではない。私はこれら対人感情をただ一つの大きい愛に高めようと努・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・この堪え難き悲哀は何をか悲しみ何をか哀れむ。虫の音は、花の色は、すべての宇宙の美は、虚無でない、虚無でない「美」の底に悲哀が包まれたるは何の意味であるか。銀座の通りを行く。数十百の電車は石火の一刹那に駛せ違う。数百千の男女はエジプトの野を覆・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
・・・己が不遇を知らずして天を楽しみ地を喜び平然として生きるものはさらに憐れむに足る。深山に人跡を探れ、太古の民は木の実を食って躍っている。ロビンフッドは熊の皮を着て落ち葉を焚いている、彼らの胸には執着なく善なく悪なし、ただ鈍き情がある。情が動く・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫